実は、中村さんの姉貴的存在である菊地ファームの菊地さんも、いわゆる「よそ者」である。

 千葉県出身の菊地さんは千葉県の有名進学校から帯広畜産大学に進み、酪農を学んだ。その時、やはり千葉県出身の2年先輩だった現在の旦那さんと、アメリカンフットボール部を通じて知り合った。

「初めは獣医になりたくて大学を選んだんですけど、そのうち酪農の魅力に惹かれるようになりました」と菊地さんは言う。

新規酪農家の条件は夫婦であること

 卒業後は北海道で酪農家を営むことを2人で決め、先に卒業した旦那さんが広尾町の応募をみつけて、酪農で起業するための準備を進めた。

 酪農で起業するといっても行政に対するだけでも手続きは山のようにあり、準備には1年以上かかりましたと旦那さんは言う。

 また、1頭の牛を飼えば酪農家が始められるというようなものではなく、最低でも45頭以上飼わなければ、牧草地の刈り取りや搾乳機などの設備投資に見合う収入が得られない。

 そのため、牧草地の購入などを含めて初期投資で軽く1億円を超えてしまう。

 設備や土地を担保に公庫や金融機関から借り入れすることは可能だったが、そのためには夫婦で起業する必要があった。

 地元に定着して長く生活することを「夫婦という形」で宣言しろというわけである。

 こうして菊地ファームは45頭の牛と夫婦2人で2009年にスタートした。菊地夫妻にとって念願だった北海道で牧場を手にすることができた。

 ところが、いざ始めてみると、新規酪農家の熱意は冷や水を浴びせられることも少なくなかった。

 例えば、搾った牛乳の販売。

 十勝では農協が地域ごとに酪農家の搾乳を集めて特定の乳業メーカーに卸している。酪農家にすれば販路を開拓する手間が省け、売れないリスクもないので有難い話である。

 しかし、引き取りの乳価は市況次第。市況が悪くなれば経営は一気に悪化する。

 大規模化でコストを削減する余力があるメガファームなら乗り切れる程度でも、新規酪農家にとっては死活問題となる場合がある。

 北海道で酪農家を始めたとはいえ、明るい道ばかりではないのだ。