北海道は言わずと知れた昆布の名産地である。最高級のブランド品からコストパフォーマンスの高い昆布など、昆布のデパートと言っていい。

 その中で、それほど名前を知られていない広尾町の昆布をどうしたら日本中の、さらには世界の消費者に知ってもらえるか。

 廃棄処分前の屑昆布を前に、保志さんは来る日も来る日も頭を巡らした。そうした中で思いついたのが、「星屑昆布」だった。

 昆布は主に出汁として使う。それならば、屑昆布をもっと小さく破砕して旨味成分を引き出しやすくすれば便利じゃないか――。

 こう考えた保志さんは、屑昆布と格闘し始めた。

 どのくらいの大きさに破砕したら最も使いやすくなり、えぐみを抑えられるか。成分分析機と格闘しながら、たどり着いた結論が、約1.5ミリ角に破砕することだった。

 こうして「星屑昆布」は産声を上げた。保志さんは言う。

「十勝では昆布を13等級に分けていますが、1グラム当たりの単価で言えば、3等級の昆布に比べて星屑昆布は6~7倍の単価になります」

 まだ販売は始まったばかりだが、星屑昆布は昆布漁師の経営を大きく改善する可能性を秘めている。それだけではない。

「今までは捨てていた屑昆布に光を当てたことで、地域の昆布漁師の仲間たちに大きな貢献ができる可能性がある。それが何より嬉しい」

 第1次産業の生産性とブランド力を格段に向上させた典型例と言えるだろう。

 星屑昆布の開発もあって、保志さんは2023年3月、「漁師の甲子園」とされる「全国青年・女性漁業者交流大会」で、最高位の農林水産大臣賞を受賞している。

 英国のフィナンシャル・タイムズ(FT)紙は「カナダの謎、一体なぜ巨大な経済大国ではないのか?」という記事を最近配信した。

 地下資源も農林水産業の資源も世界屈指にもかかわらず、また以前から経済大国になると期待されていたにもかかわらず、カナダがなかなか豊かになれないのはなぜだろうか、という記事である。

 実は、この問いの答えを星屑昆布が示している。

 都会からDX(デジタルトランスフォーメーション)など新しい息吹を持った人が集まり、地元の意識の高い人たちと交わることで、第1次産業に新たな成長の芽を作り出す。

 それができなければ、世界屈指の資源を持つカナダであろうと、先進国の仲間から置いてきぼりを食らう危険性もあるのだ。

 ピロロとは、そういう人たち、最近の欧米の流行言葉で言えば「ウォーク(Woke)=意識の高い人たち」の集まりだ。

 ウォークという言葉は日本ではまだほとんど馴染みがないかもしれない。そのため、米国などで意識の低い一部の過激派が、意識の高い層を攻撃する際の「標語」として日本に伝わり、マイナスな印象を受ける人もいるようだ。

 しかし、それこそ過激派の思う壺でもある。

 日本のウォークたちは、食の王国・十勝で革新を起こし、農林水産業の生産性を格段に向上させようとしている。

食の熱中小学校とは

 2023年9月に開校した、地方の生産者と大都市の消費者をつなぎ、新しい時代の農林水産業の形を模索・研究していくための学び舎。第1次産業の画期的生産性向上を導き、日本の食文化をさらに高度化させようという取り組み。

 2023年9月8~10日、第1回の現地実習が北海道・広尾町で開催された。

以下は広尾町で開催された現地実習会に参加した人たち。

撮影は地域おこし協力隊の神部葵さん
イベント参加者は保志さんの昆布浜で約1時間のヨガも体験。講師は角畠あさみさん(筆者撮影)