今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

「足の裏を掻いて笑えば願いが叶う」

 今回のテーマについて、真贋入り混じる現代の集合知ことWikipediaで調べた結果、そんな情報を得た。生まれはアメリカ。尖った頭と吊り上がった目が特徴の子供の姿をした幸運の神で、大阪・新世界は通天閣にある像が著名だという。その名はビリケン……失礼、これは一文字違いの勘違い。

 正しい今回のテーマは、“サンダル界のマスターピース”ドイツ発祥のフットウェアブランド、ビルケンこと“ビルケンシュトック”である。しかしここで、勘違いとは思えない疑問符が浮かぶ。そもそも本連載は“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案することを目的ではなかったか? 当然“あえて”だ。

 この夏、例年よりも暑い毎日を過ごし、例年よりも長い盆休みを経て、いま読者諸氏の足は相当に疲れている。そこで効果を発揮するのが同社独自のフットベッド。着用を繰り返すことで足裏の形に応じて形状が変化し、足指によるホールド感や蹴り出しを支援。理想的な体重移動を促すことで体の負担を軽減する。要は、履けば履くほどに歩行時の快適性が増し、健康に近づいていくというハナシ。しかも今回用意した5足は、どれもファッション性をも備えた、間違いなしの新旧の名作たち。

 ちなみに先述のビリケンだが、彼が座る台座部分には“THE GOD OF THINGS AS THEY OUGHT TO BE(物事のあるべき姿を司る神様)”と記されている。超訳するならば“なるようになる”。ビルケンのフットベッドで足裏を刺激しながら過ごせばどうなるか。健康になる? 洒落者と呼ばれる? その答えは、試してみれば自ずと分かるはず。信じるものは救われる。

 

1. BIRKENSTOCK「Boston Nova」

サンダル¥34,100/ビルケンシュトック(ビルケンシュトック・ジャパン カスタマーサービス)

令和のエッセンスを注入し、現代的でタフな装いにアップデート

 ビルケンのラインアップは2つに大別される。つま先の空いたサンダルタイプと、甲部分が覆われたカカトのないクロッグタイプ。後者を代表するモデルが「ボストン」だ。1976年のデビュー以来、定番名作としてファンたちに親しまれ、ここ日本では1990年代、アメカジ人気からヒッピーファッションが注目された際にブレイクを果たした。

 最大の特徴は、甲全体を覆った丸みのあるアッパー。絶妙なカーブを描くトゥにボトムスの裾を被せて着用すると、健康靴を出自とするとは思えないほど洗練されたムードを醸し出す。

 また最近はZ世代からも支持を集めているようで、かようなアップデートモデルも爆誕した。ナイロンとヌバックのコンビネーションアッパーに、武骨で機能的なバックルを装備。エモいかどうかはさておき、令和の世にふさわしいエッセンスが注入された一足であることは確かだ。