BRICS首脳会議に参加した参加国の首脳(写真:ロイター=共同)
  • 南アフリカのヨハネスブルグで開催されたBRICS首脳会議。従来の5カ国から、新たに中東産油国を含めた6カ国の参加が発表された。
  • 今回のBRICS首脳会議では、加盟国拡大に加えてBRICS共通通貨構想も取りざたされており、「すわ、米ドル覇権への挑戦か」という見方も広がっている。
  • だが、米ドル覇権への挑戦は英ポンド、日本円、ユーロとたびたび話題に上ったが、いつの間にか立ち消えになった。そもそもBRICS共通通貨は「米ドル覇権への挑戦」以前に、実際の通貨として結実することすら困難だと思われる。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 8月22日から24日にかけて、南アフリカのヨハネスブルクで開催されたBRICS首脳会議は、既存の5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に加え、2025年1月から新たに6カ国(アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAE:アラブ首長国連邦)が加盟することを発表した。

 今回の6カ国承認を拡大の一里塚と捉える報道は多い。

 近年、北半球の先進国に対し南半球の途上国の総称として「グローバルサウス」というフレーズが使われるが、今回のニュースは確かにその勢力拡大を印象づけるものであった。これにあわせて、筆者の元にも「国際経済・金融情勢にどのような影響を持つのか」という問い合わせが来ることが増えた。

 本件は様々な論点を含む問題だが、本コラムでは「米ドル覇権への挑戦なのか」というよくある問い合わせについて簡単な考察を与えておきたい。

BRICS共通通貨構想の前提となるOCAの条件

 今回のBRICS首脳会議は、加盟国拡大に加えて、BRICS共通通貨構想も取りざたされている。こうした動きがグローバルサウスによる「米ドル覇権への挑戦」といった論点で切り取られており、そのように注目されることがBRICS首脳会議の狙いだったと思われる。

 だが、金融市場の経験が長い読者ほど「いつか来た道」と感じたのではないか。

 かつて英ポンド、日本円、そしてユーロと時代の節目節目で「米ドル覇権への挑戦」が国際金融の舞台で話題に上ってきた。しかし、いずれも米ドルに肉薄することはなく、自然と立ち消えになった。今回も恐らくそうなるだろう。

 そもそもBRICS共通通貨は「米ドル覇権への挑戦」以前に、実際の通貨として結実することすら困難だろう。

 ある国・地域への共通通貨導入を検討する場合、理論的にはそれが最適通貨圏(OCA:Optimal Currency Area)の条件を満たすかどうかが争点になる。

 OCAの条件は以下の4つが挙げられる。

①対象国間で産業構造に類似性があること
②対象国間で貿易開放度および貿易依存度が高いこと
③対象国間で生産要素価格の伸縮性・移動性の高さがあること(≒端的には労働力の移動が自由であること)
④対象国間で円滑な財政移転が可能なこと

 詳しく議論するまでもなく、BRICS首脳会議の現加盟国はもちろん、未来の加盟国についても、この条件は全く満たせない。