事実上の「利上げ停止宣言」を出したECBのラガルド総裁(写真:AP/アフロ)
  • 9月14日の政策理事会で、10会合連続の利上げを決めた欧州中央銀行。今回の理事会では、事実上の利上げ停止宣言も打ち出しており、為替市場ではユーロ売りが進んでいる。
  • もっとも、域内のインフレ状況は徐々に沈静化しつつあるが、ユーロ圏消費者物価指数(HICP)の再上昇の可能性もあり、利上げ停止宣言は踏み込みすぎの懸念も残る。
  • 何より、金利の高止まりで不況になり、金利や物価が落ち着いていけばいいが、不況の中で金利・物価が下がらないスタグフレーションに近いリスクシナリオを回避できるのか。ECBにとってはその方が課題だ。

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

矜持を見せたECB

 欧州中央銀行(ECB)は9月14日の政策理事会で、史上初となる10会合連続の利上げを決定した。これにより、預金ファシリティ金利は4.00%へ、主要リファイナンスオペ(MRO)金利は4.50%へ、限界貸出ファシリティ金利は4.75%引き上げられた。預金ファシリティ金利については過去最高水準になる。

※預金ファシリティ金利とは、ユーロ圏の民間銀行が一時的に過剰となった資金を中央銀行に預け入れる時の金利のこと。主要リファイナンスオペ(MRO)金利は、ECBや各国中央銀行の公開市場操作において、各国中央銀行が資金を供給する際の下限金利。限界貸出ファシリティ金利は、急な資金需要が生じた際に、金融機関がECBから資金を借り入れる際の金利。いずれもECBの主要な政策金利。

 後述する通り、利上げとともに事実上の「利上げ停止宣言」が付されており、今後は本当に停止できるか否かが問われるだろう。

 筆者はユーロ圏の経済・金融情勢を踏まえれば、今回の会合では利上げ見送りの公算が大きいと予想していた。より厳密に言えば、中銀としては利上げを選ぶ方が正しそうだが、7月声明文でハト派色を強めたことや、9月に予想されたスタッフ見通しのインフレ下方修正などを考慮すれば、利上げ見送りがロジカルな対応になると予想していた。

 今回、スタッフ見通しにおけるユーロ圏消費者物価指数(HICP)見通しは、総合ベースこそ2023~2024年にわたって上方修正されたものの、コアベースでは2023年は横ばい、2024年と2025年は下方修正された。実質GDP成長率に関して言えば、全期間にわたって引き下げられている。

 こうした数字をもとに利上げを見送ることは、説明可能であったようにも思われる。それでも利上げに踏み込んだのは、総合ベースで見たHICPの見通しが引き上げられたことに加えて、その背景にある原油価格上昇が将来的なアップサイドリスクとしてみなされたことなどが材料視されたのだろう。

 実際、ラガルドECB総裁の会見でも「エネルギーや食料のコストに関する潜在的な再上昇のリスク(potential renewed upward pressures on the costs of energy and food)」に言及していた。

 政策決定自体は筆者の予想に反するものであったが、政策運営それ自体はインフレファイターとしての矜持を見せたものと評価できる。

 だが、後述するように、利上げの停止を半ば宣言してしまったことで、今後の注目は「本当に利上げせずに済むのか」という点に移ってきてしまうようにも思える。