- 8月9日、バイデン米大統領が米国の対外投資規制に関する大統領令に署名した。
- 規制対象となる「懸念国」は中国と香港・マカオ。対象分野は①半導体・マイクロエレクトロニクス、②量子情報技術、③人工知能(AI)の3分野に限定された。
- 今回の大統領令は、企業の対中投資姿勢を一層慎重なものにし、米国とその同盟国と、中国との戦略的・選択的デカップリングを一層進めることになる。
(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
バイデン政権がみつけた「落としどころ」
2023年8月9日、バイデン米大統領が米国の対外投資規制に関する大統領令に署名した。同大統領令は、今春以降、いつ署名されるのか、どのような内容になるのか、注目が集まっていた。
同大統領令は、米国企業による中国(香港・マカオを含む)への投資を規制するものだ。
米国はこれまで、半導体をはじめとする対中輸出管理や、米国への中国企業による投資に関する規制を厳格化し、人民解放軍の現代化や強化につながる米国の製品や技術に中国企業がアクセスすることを抑止してきた。
しかし、機微技術を扱う中国企業に米国企業が投資することへの規制が十分ではなく、中国での技術の発展に力を貸すことになっているとの声が、議会を中心に高まっていた。
他方、米産業界は、対中投資規制の強化は米国内での研究開発や雇用に悪影響を与えるとして、これに反対するとともに、新たな規制を導入する場合にはその対象を国家安全保障上必要な範囲に限定し、明確にすることを求めていた。
バイデン政権は、中国とは軍事的対決に至らぬように競争を管理し、気候変動や途上国の債務問題など協力できるところは協力することを目指している。そのため、むやみに中国を刺激し、関係を悪化させることは望んでいなかった。
今回の大統領令は、対中投資規制強化を求める議会と、これに反対する産業界の板挟みとなりながら、中国との関係改善を目指すバイデン政権がみつけた「落としどころ」といえるだろう。
肝心の大統領令の内容だが、「軍事、諜報、監視、サイバー対応能力にとって重要な機微・先進技術・製品を開発・利用しようとする懸念国が米国にもたらす国家安全保障上の脅威に対処する」ため、懸念国事業体への米国人による特定の種類の対外投資を禁止、または届出を義務付けるプログラムを確立するよう財務長官に指示するものだ。
同時に公表された規制の諸要素に関する財務省案(Advance Notice of Proposed Rulemaking:ANPRM)とあわせてみると、規制の概要は以下のようになっている。