- 欧州連合(EU)の「欧州経済安全保障戦略」が公表された。①振興(Promoting)、②保護(Protecting)、③連携(Partnering)の取り組みを、(a)均衡(Proportionality)と(b)精密(Precision)という基本原則に基づき経済安全保障の確保を進めることが謳われている。
- 今回の欧州経済安全保障戦略が過度に企業の事業活動を制約したり、経済に悪影響を与えたりしないよう、配慮されているが、他方で、輸出管理等の規制の厳格運用や対外投資審査等の新たな措置の導入も求めている。
- 6月29〜30日に開催される欧州理事会(EU首脳会議)からEU域内での議論が始まるが、その行方は日本企業の事業活動にも大きな影響をもたらすとみられる。
(菅原 淳一:オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
I. 欧州委員会が経済安全保障戦略を公表
2023年6月20日、欧州連合(EU)の欧州委員会と外務・安全保障政策上級代表が共同で、「欧州経済安全保障戦略」を公表した。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長によれば、「主要国として初めて打ち出された経済安全保障に関する戦略」である。
同文書はいわゆる政策文書(Communication)であり、欧州委員会(及び外務・安全保障政策上級代表)としての経済安全保障に関する基本認識や取り組みの指針、EU加盟国への提案等が盛り込まれている。今後、これを土台にEU域内での議論が行われる。
本戦略は、「高まる地政学的緊張と加速する技術革新という状況下で、経済の開放性とダイナミズムを最大限に維持しつつ、特定の経済の流れから生じるリスクを最小化することに焦点を当てたもの」となっている。
また、経済安全保障上のリスクに対処するにはしっかりとしたリスク評価を行う必要があるとして、①エネルギー安全保障を含むサプライチェーンの強靱性に対するリスク、②重要インフラの物理的及びサイバー・セキュリティ上のリスク、③技術安全保障や技術流出に関するリスク、④経済的依存の武器化や経済的威圧のリスク──の4つのリスクをその対象に挙げている。
今後、産業界の意見も取り込みながら、リスク評価が進められる。