米国の人権重視の外交・通商政策がさらなる厳格化の方向に向かっている。
バイデン政権は、世界中での人権保護を国家安全保障の確保と並ぶ外交・通商政策の目的に位置付け、中国に対しても非妥協的な態度で臨むことを明らかにした。トランプ政権以降続く強制労働などの人権侵害への関与を理由とした輸入禁止や輸出規制等の通商措置は、バイデン政権下で強化されており、輸入差止件数や輸出規制対象の事業体数は着実に増加している。
今後は、これら法規制の厳格化や通商措置の運用強化がさらに進むとみられ、日本企業もその対応に積極的に取り組む必要がある。米国で進む「人権の安全保障化」について解説する。
菅原 淳一(オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
妥協を許さぬ人権保護
2023年4月20日にジャネット・イエレン米財務長官が行った対中政策演説は大変興味深いものだった。1年前の演説は、「フレンド・ショアリング」という用語を広く世に知らしめることになったが、今回際立ったのは人権重視の姿勢だろう。
【関連記事】
◎グローバリゼーションの次の世界、米国が目論むフレンド・ショアリングとは
◎日産「リーフ」も外れた米国のEV税額控除、その背景にあるバイデン政権の矛盾
バイデン政権は、発足当初から外交における人権重視の方針を明らかにしていたが、今回の演説でイエレン財務長官は、バイデン政権の対中政策の第一の目的として米国の国家安全保障の確保と人権保護を掲げた。
そして、グローバル課題に対処する上で中国と協力する重要性を指摘した反面、「国家安全保障同様、人権保護では妥協しない。この原則は、米国が世界にいかに関与するかの基礎となる」「米国は世界のどこであっても、人権侵害を防止・抑止するために手段を講じ続ける」と明言した。
米国はこれまでも、人権侵害に関与した個人・組織への経済制裁や、強制労働や児童労働によって生産された製品の輸入禁止、人権侵害を助長する用途に用いられる製品・技術の輸出規制など様々な手段を講じてきた。その中でも輸入禁止や輸出規制等の通商措置が足元で強化されている。
具体的に見ていこう。