米国が進める人権関連規制の“多国籍軍”

 米国は、こうした人権関連規制の強化を同志国(like-minded countries)にも求めている。

 日米間では、2023年1月6日に「サプライチェーンにおける人権及び国際労働基準の促進に関する日米タスクフォース」の設置が合意され、協力覚書が署名された。

 同タスクフォースは、「企業によるサプライチェーン上の人権尊重及び国際的に認められた労働者の権利の保護等の促進を目的に、ガイダンス、報告書、ベストプラクティス、教訓、法令、政策、執行実務などについて相互に情報共有していくことなど」に取り組むこととされている。

 2023年4月19日には、来日中の米通商代表部(USTR)タイ代表がサプライチェーンのあらゆる段階における強制労働問題に対処すべきことを訴え、同タスクフォースや現在インド太平洋14カ国が参加して交渉が行われている「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(IPEF)」を通じて、日米両国が協力して世界のリーダシップをとると強調した。

 日本をはじめとする同志国との二国間の取り組みに加え、米国は複数の同志国と取り組みの多国間化を進めている。

 例えば、「輸出管理と人権イニシアティブ」は、監視技術等の人権侵害に用いられる技術の拡散防止のための輸出管理の強化に関する協力を目的に、2021年12月に立ち上げられた。当初は、米国とオーストラリア、デンマーク、ノルウェーの4カ国が参加し、カナダ、フランス、オランダ、英国がこれを支持した。

 2023年3月30日には、同イニシアティブの下で「行動規範(Code of Conduct)」が公表された。

 これは、深刻な人権侵害を助長する物品やソフトウェア、技術の拡散を防ぐために輸出管理を適用する行動規範で、参加国の政治的コミットメントを示す自主的で拘束力のないものとされている。軍民両用品目の輸出管理において人権侵害への利用可能性を考慮すること、自国の民間部門に人権デュー・ディリジェンスの実施を奨励することなどをその内容としている。日本を含む25カ国がこの行動規範を支持した。

 人権関連の規制、特に輸出管理等の通商措置は、その実施国が増えるほど効果が大きくなる。米国は、今後もこうした取り組みの多国間(レジーム)化と参加国の拡大を図っていくとみられる。