「エンティティ・リスト」による取引制限のインパクト

 米国は、人権侵害抑止のため、輸出に関しても米国の製品・技術が人権侵害を助長することのないよう規制を強化している。

 その取り組みの一つとして、トランプ政権以降の輸出管理規則(EAR)の改訂がある。直近の2023年3月28日の改訂では、輸出審査時等に考慮される「米国の国家安全保障または外交政策上の利益」に、「世界中での人権保護」が含まれることが明確にされた。

 また、強制労働等の人権侵害への関与を理由にした「エンティティ・リスト」への事業者等の掲載も進められている。

「エンティティ・リスト」とは、「輸出者がライセンスを取得しない限り、EARの対象となる物品等の一部またはすべてを受領することが禁止されている外国の企業等」のリストであり、「米国の国家安全保障や外交政策上の利益に反する活動を行う個人、企業、研究機関、政府機関など」が掲載される。

 リスト掲載企業への規制対象品目の輸出・再輸出等には事前許可申請が必要であり、当該申請は多くの場合原則不許可になる。前述のEAR改訂により、エンティティ・リストへの掲載事由として、「世界中での人権保護」が考慮されることが明らかになった。

 近年の人権侵害への関与を理由としたエンティティ・リストへの企業等の掲載には、①中国・新疆ウイグル自治区での強制労働等への関与と、②ミャンマー軍政下の人権侵害への関与を理由としたものが多く見られる。

 中国に関しては、人民解放軍の現代化への関与を理由に多くの組織・企業がエンティティ・リストに掲載されているが、①中国・新疆ウイグル自治区での強制労働等への関与を理由としたものでは、トランプ政権下で2019年10月9日に新疆ウイグル自治区公安庁等の20の政府機関と監視技術関連等の8社がエンティティ・リストに掲載された。

 この後、監視技術や遺伝子解析等の関連企業や強制労働に関与した企業等が追加され、トランプ政権下では計52組織・企業がエンティティ・リストに掲載された。バイデン政権下でもこれは継続され、直近では2023年3月28日に5社が追加され、これまでに計30社が掲載されている。

 ②ミャンマー軍政下の人権侵害への関与では、2021年2月の軍事政権成立以降、国軍関係者への経済制裁やミャンマー向けの輸出管理の強化と並行して、エンティティ・リストへの企業等の掲載が進められた。

 2021年3月8日に国防省・内務省等4組織を掲載したのを皮切りに、軍事政権による人権侵害に関与したとして、これまでに計4回にわたって14組織・企業がエンティティ・リストに掲載されている。

 直近では、2023年3月28日に軍事政権に人権侵害に用いられる装備等を提供したとして3社がエンティティ・リストに掲載された。