米国は4月17日、電気自動車(EV)優遇制度の見直しに伴って、税額控除の対象となるEVとプラグインハイブリッド車(PHV)を発表した。日産自動車のEV「リーフ」が優遇対象から外れるなど、米市場で展開している自動車メーカーを震撼させている。その背景にある、バイデン政権のフレンド・ショアリングと自国優先政策の矛盾を解説する。
菅原 淳一(オウルズコンサルティンググループ・プリンシパル)
2023年3月28日、日米重要鉱物サプライチェーン強化協定(日米CMA)が署名され、即日発効した。米国は、一般的には「自由貿易協定(FTA)」とはみなされない同協定を、インフレ抑制法(IRA)で規定されたEV税額控除要件における「FTA」とみなし、日本を「FTA発効国」として扱うこととした。
これは、同志国の協力が不可欠なフレンド・ショアリング構築と、同志国をも差別する自国優先政策の両立のためにバイデン政権が編み出した苦肉の策と言える。2024年の大統領選挙を控え、バイデン政権は議会の制約を受けながら両者の両立のための隘路を歩み続けることになるだろう。
フレンド・ショアリングとぶつかる自国優先政策の矛盾
バイデン米政権は、経済安全保障の確保のため、中国・ロシア等の地政学的競争相手や特定国・地域への経済的依存度を低減させる一方、経済効率の維持とリスク分散を図るため、基本的価値を共有する「同志国(like-minded countries)」による安全で信頼できるサプライチェーンの構築、いわゆる「フレンド・ショアリング」の取り組みを進めている。
EU(欧州連合)との間では「貿易・技術評議会(Trade and Technology Council:TTC)」、中国との競争の最前線となるインド太平洋地域では「繁栄のためのインド太平洋経済枠組み(Indo-Pacific Economic Framework for Prosperity:IPEF)」、米州でも「経済的繫栄のための米州パートナーシップ(Americas Partnership for Economic Prosperity:APEP)」を立ち上げ、サプライチェーンの強靱化に向けた政策調整やルール形成が進められている。
バイデン大統領や同政権の閣僚は、米国の経済安全保障を米国一国のみで確保することは不可能であり、同志国との連携が重要であると繰り返し述べている。
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他方、バイデン政権は、国内雇用を維持・創出し、中間層を強化することを政権の最優先課題の一つに掲げ、自国優先・保護主義的な産業政策を推し進めている。
経済安全保障の確保のためにも、国内産業を保護・育成し、競争力強化を図ることが不可欠であるとの考えに基づき、半導体等の重要産業分野において、連邦政府主導の研究開発・国内製造支援措置を打ち出している。
その中には、いわゆるバイ・アメリカンの強化など、同志国を含む外国企業を米国企業に比べて不利に扱う措置も少なからず見受けられる。
これらの措置には、コスト増による米国企業の競争力低下や、納税者・消費者の負担増につながるとの批判に加え、同志国に不利益を与えるためフレンド・ショアリング構築の障害になるとの声が米国内外から出ている。
ブリンケン米国務長官は、バイデン政権の対中戦略を「(国内産業に)投資し、(同志国と)連携し、(中国と)競争する(invest, align, compete)」と表現した。しかし今、「投資」と「連携」の間に矛盾が生じ、中国との「競争」に悪影響をもたらしかねない状況となっている。