FTA発効国を柔軟に解釈した苦肉の策
EV税額控除に関して、同志国が問題視している点の一つに重要鉱物要件におけるFTA発効国の問題がある。
前述のように、EUは、米国とFTAを締結していないEUをFTA発効国とみなすよう米国に求めている。2022年10月25日には、米EU間でIRAに関するタスクフォースが立ち上げられ、この点についても議論が行われてきた。
このFTA発効国について、米国と最初に合意に至ったのは日本である。
2023年3月28日に「重要鉱物のサプライチェーンの強化に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」(日米重要鉱物サプライチェーン強化協定:日米CMA)が署名され、即日発効となった(図表2)。米国は、同協定をインフレ抑制法(IRA)上のFTAとみなすことで、この問題の解決を図ったのである。
【図表2 日米CMAの構成】
本件を所管する米財務省及び内国歳入庁は、IRAにはFTAを定義する規定はないとして、重要鉱物要件におけるFTAを特定する裁量を財務長官に与えることを提案していた。
FTAは通常、WTO協定(GATT第24条)に規定された「自由貿易地域」を設定する協定と解されている。米財務省及び内国歳入庁も、同条に基づくFTAである20の協定(図表1参照)については、重要鉱物要件におけるFTAに該当するものとして提案している。他方、同条の要件を満たさない日米貿易協定をFTAとみなしていないことからも、米国もこれまではFTAを同条に基づく協定と解していたことがわかる。
米通商代表部(USTR)は、日米CMAの発効に伴い、ウェブページを改訂し、FTAを「包括的なFTA」と「重要鉱物の自由貿易に焦点を当てた協定」に分け、前者にはそれまでFTAとして掲載されていた20の協定を、後者には日米CMAを掲載した。
これを受け、細則案においては、財務長官が特定するFTA発効国の例として日本が明記された。
米国は、EUとの間でもCMA交渉を開始することに2023年3月10日の米EU首脳会談で合意した。インドネシアもIRAの要件を満たすため、米国との限定的なFTAの締結を検討していると報道されている。今後交渉される同種の協定では、日米CMAがひな型になるとみられている。