EV税額控除3要件に対する日欧韓の懸念

 同措置に関して日本は、北米地域やFTA締結国といった特定の国・地域のみを優遇する措置は、日本企業の対米投資を躊躇させ、米国における投資・雇用の拡大に悪影響を与えるとして3要件への懸念を示し、「同盟国たる日本メーカーが製造するEVも同等に税額控除を受けることができるよう運用すること」を求めた。そのために、「『最終組立』や『北米』の定義の柔軟な解釈」や「『米国が発効済みFTAを保持している国』の明確化」を要求している。

 EUは、EU域内における自動車・蓄電池・重要鉱物分野での投資判断に悪影響を及ぼし、米国内外で強い市場歪曲性を有するものであると批判し、3要件についてEUに対する全般的な免除・例外を要求した。また、重要鉱物要件においては、(米国とFTAを締結していない)EUをFTA発効国とみなすことを求めた。

 米国とのFTAが発効している韓国も、最終組立要件は米韓FTA及びWTO(世界貿易機関)協定における米国の約束と整合的でないとした上で、3要件について韓国を北米諸国と同等の扱いとすること、あるいは、韓国企業による米国生産拠点の建設に要する3年の間、3要件の適用を猶予することを要求した。日本同様、最終組立やFTAなどの用語の定義を柔軟に解釈することで要件を緩和するよう求めた。

 こうした米国内外の声に対し、バイデン政権としてできることは限られている。

 インフレ抑制法(IRA)に明記されている以上、その修正には議会による修正法案の審議・可決を要するが、現在それが可能な政治状況にはない。したがって、バイデン政権はIRAに明記された要件を具体的に適用するための細則において、各要件の規定にある用語の定義を柔軟に解釈することによって、国内外の各要件の緩和・修正を求める声に応える道を選んだ。