北米優遇、EV税額控除の厳しい要件
この「投資」と「連携」の矛盾の典型例として、米国と同志国の間で問題となっているのが、インフレ抑制法(IRA)における電気自動車等に関する税額控除措置(EV税額控除)である。
同措置は、電気自動車(燃料電池車<FCV>含む。以下、EV)の新車購入に際し、最大7500ドルの税額控除を認めるものである。
その対象となる要件は、北米地域(米墨加)でのEV生産を促すものとなっている半面、その要件が厳しすぎるため、対象となるEVが限定され、EV普及に役立たないとの懸念がもたれている。また、米国の同志国からは、同要件が同志国をも不当に差別するものであるとして、その修正を求める声が上がっている。
同志国が特に問題視しているのが、EV税額控除の対象となるための、①最終組立要件、②重要鉱物要件、③バッテリー部材要件である(図表1)。
【図表1 IRA・EV税額控除の主な要件概要】
①最終組立要件は、同措置の対象となるEVの最終組立が北米で行われていなければならないとする。
②重要鉱物要件は、バッテリーに含まれる指定重要鉱物のうち、(1)米国内、もしくは米国と自由貿易協定(FTA)が発効している国(FTA発効国)で抽出・加工されたもの、あるいは(2)北米でリサイクルされたものの割合が一定以上でなければならないとした規制だ。その割合は2023年末までは40%、2024年からは50%、2025年からは60%、2026年からは70%、2027年1月1日からは80%とされている。
③バッテリー部材要件は、バッテリー構成部材のうち、北米で製造または組み立てられた割合が一定割合以上であることを求め、その割合は2023年末までは50%、2024〜25年は60%、その後、毎年10%ずつ引き上げられ、2029年1月1日からは100%とされている。
さらに、②重要鉱物要件については2025年1月1日から、③バッテリー部材要件については2024年1月1日から、懸念外国企業(=制裁対象<SDNリスト掲載>企業、懸念国<中国、ロシア、イラン、北朝鮮>政府が所有・支配する企業など)が製造等に関与している場合は除外することとされている。
②重要鉱物要件と③バッテリー部材要件を満たすことで、それぞれ3750ドルの税額控除が認められる。①最終組立要件はIRAが成立した2022年8月16日以降適用されているが、②重要鉱物要件と③バッテリー部材要件については細則案が官報告示された2023年4月17日以降適用されることとなった。