「一帯一路」構想を打ち上げた習近平国家主席(写真:新華社/共同通信イメージズ)
  • 今年で10周年を迎える中国の「一帯一路」構想だが、「債務の罠」に陥る国も出始めており、懸念の声も上がる。
  • こうした中国の動きを傍目に、西側諸国もインド太平洋地域やグローバルサウス諸国を対象としたインフラ整備支援を進めている。
  • 中国と西側諸国がしのぎを削るインフラ輸出。「質の高いインフラ輸出」を掲げる日本が影響力を発揮する余地は残されているのだろうか。

(福山章子:オウルズコンサルティンググループ・チーフ通商アナリスト)

 中国の「一帯一路」構想が今年で10周年を迎える。華々しいデビューを飾った構想だが、「債務の罠」の懸念が払拭できないなど、ハードインフラを中心に課題もある。

 このような中で、G7は新興国のインフラ投資パッケージ「PGII(グローバル・インフラ投資パートナーシップ)」を発表した。「一帯一路」への対抗と解されている。

「一帯一路 vs PGII」という単純な構図では語れないが、インフラ投資の新たなルール形成に日本の強みを反映するなど、有効な打ち手はまだ残されている。「質の高いインフラ輸出」を掲げる日本政府の後押しとなるか。

I. 10周年を迎える中国の「一帯一路」

 中国の「一帯一路」構想が今年で10周年を迎える。「一帯一路」は2013年秋に習近平国家主席が打ち出した構想で、アジアから欧州、アフリカに至る地域を「シルクロード経済ベルト(一帯)」と「21世紀の海上シルクロード(一路)」でつなぎ、巨大経済圏を構築するものだ。

 これまでに多くの国が関心を示し、2018年に開催された第2回「一帯一路」国際協力ハイレベルフォーラムには、38カ国の首脳級を含む150余りの国や92の国際機関から約6000人が参加。中国は着実に影響力を拡大しているかに見えた。

第2回「一帯一路」ハイレベルフォーラム、習氏は持続可能性の確保を強調(JETRO)

 しかし、融資の返済等が困難になった国に対し、返済と引き換えに権益を要求する「債務の罠」の懸念も顕在化している。スリランカのハンバントタ港の事例は有名だが、昨今はアフリカ各国でも債務不履行の懸念が高まっている。

アフリカで債務不履行が顕在化 ガーナなど、食糧高響く(日経新聞)

中国とスリランカが共同運営するハンバントタ港(写真:新華社/共同通信イメージズ)

「一帯一路」では、作業の遅延、世論による反対、資金不足等を理由として、2013年から2018年の間に合計4190億ドル超に相当するプロジェクトが進行困難に陥っているとの分析結果もある。

 これは、一帯一路政策の全プロジェクトのほぼ3分の1を占める規模だ。

資金や時間を費やすだけの無意味な中国の一帯一路政策(Indo-Pacific Defense FORUM)

 この傾向は特に鉄道、道路、港湾などのハードインフラで強い。

 たとえば、メキシコの高速鉄道の建設プロジェクトは契約解消、タイでは大型の鉄道整備計画が宙に浮いたままだ。G7で唯一の構想参加国であるイタリアは離脱を模索しているともたびたび報じられている。

中国一帯一路構想の狙いと日本の採るべき国家戦略の提言(平和政策研究所)
タイに延びない中国「一帯一路」鉄道 すれ違う思惑(日経新聞)