中国・新疆ウイグルの綿産業。同地域では、中国政府による人権侵害が国際的に批判されている(写真:ZUMA Press/アフロ)
  • 「米中対立の主戦場は半導体をはじめとした先端技術の分野」という認識があれば、それは改めた方が無難だ。既に、先端技術やデュアルユース品目だけでなく、汎用品にまで広がっている。
  • 日本や米国は国家安全保障や経済安全保障の分野だけでなく、環境や人権の観点からも貿易や投資に関する規制強化を進めており、その対象は先端技術に関わる製品から日用品まで多岐にわたる。
  • 日本自身が中国に対する輸出強化や人権問題に対する批判を強めていることを考えれば、あらゆる日本企業が米中対立とは無縁でいられない。「地政学リスク」を「自分事」として捉えることが求められている。

※【米中分断時代の経営論(1)】「貿易摩擦から価値観の戦いにシフトした米中対立、経営者はいかに対応すべきか」から読む

(羽生田慶介:オウルズコンサルティンググループ 代表取締役CEO、オウルズコンサルティンググループ通商・経済安全保障支援チーム)

 前回の記事では、現在の米中対立がいわゆる貿易摩擦ではなく、「自由・民主主義陣営」対「専制体制陣営」という価値観の相違によるもので、それゆえに、両者の対立は形を変えながら続くと論じた。

 そして、来たるべき米中分断時代に経営者、ならびに経営企画が押さえるべきポイントとして5つのポイントを提示した。

 今回は、その中で述べた指針1「『汎用品』にまで及んでいる地政学リスク。あらゆる企業の『自分事』に」について詳しく語ろうと思う。

半導体を巡る米中の争いは一層激化

「うちは半導体とか、軍事転用可能な製品を扱っていないから、米中対立なんて無関係」「取引先は国内企業だけ。米国とも中国とも取引していないから、地政学リスクなんてうちにはない」

 そう考えている企業の目の前に、大きなリスクがすでに潜んでいるかもしれない。

 確かに、米中対立の主戦場は先端技術に関わる製品だ。特に、半導体を巡る米中の規制合戦は激しさを増している。

 2022年10月、米国は先端半導体についてこれまでにない厳しい対中輸出規制を実施した。さらに、規制の「抜け穴」を塞ぐため、米国は先端半導体の製造装置や技術を持つ日本とオランダに対して対中規制の強化を求めた。

 これを受け、日本は2023年7月から半導体製造装置23品目について輸出管理を強化した。オランダも同9月から先端半導体製造装置に対する新たな輸出規制を導入することを決めた。日蘭の規制は中国を名指ししてはいないが、これらの規制によって中国は先端半導体の入手・製造が困難になる。

 こうした動きに中国も黙ってはいない。