空き缶回収業のプライド

 Gさんにもサラリーマン時代があった。大学を出てから新卒で勤めた会社は、輸出商社だったという。

「家電メーカーの輸出部門から独立した子会社だった。当時は日本製品が一人勝ちしていた頃だったから、会社も儲かっていた。でもパワハラ・セクハラは当たり前の封建的な社風で、それが合わなくて辞めちゃった」

 その後はベビーカーの製造をやっていた実家の工場を継いだが、少子化でその商売も畳んだ。結婚は一度もしていない。今は80代の母と二人暮らし。現在の収入は空き缶回収と工場などの日雇いバイト、さらに趣味の釣り道具を売却するなどして月15万円程度だという。

 年金は「どうせもらえないから払っていない」とのこと。持ち家なので住居費はかからないが、貯金はまるでないそうだ。

「空き缶回収を始めた頃は、格好悪さと恥ずかしさでいっぱいだった。これまで経験した仕事でこんな思いをしたことはなかった。だから人通りの多い日中にはやらない」

 Gさんにこの仕事のいいところを聞いた。

「自由なところだよ。地区ごとの空き缶回収日を狙う以外は、自分の勝手で動ける。拘束されないからいいよ」

 今後に不安はないのか。

「今心配なのはアルミ価格の暴落。1kg当たり90円以下になるとキツイね。あとは自転車のパンク。タイヤ交換が必要になるとちょっとした出費になるから。空き缶回収は死ぬまで続けていくつもりだよ」

 理想の老後を聞いたところ、宝くじか競馬で一発当てられたらとのことだった。

 自由さと「環境保全」という使命感、そしてアルミニウムの価格高騰がGさんの「仕事」を支えている。

「これから夏になるから、炭酸水やビール飲む人が増えて、空き缶の数も増えるよ。今夜は晴れ!回収には適しているね」

 しきりに天気を気にしながら、Gさんは元気よく去っていった。

 江戸時代の経済小説、井原西鶴の『日本永代蔵』に、貧しい母と息子がゴミを拾い集めて巨額の財を築く話が出てくる。資源の少ない日本では、リサイクルは古くから続く生活の知恵でもある。

 庶民がゴミをお金に変えるのは、日本が貧しくなったと嘆くべきか。それとも地球規模の環境保全に貢献していると喜ぶべきか……。

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