専門家が口を揃える反転攻勢の「進撃ルート」

 では、反転攻勢の進撃ルートはどこか。各メディアや専門家は「ザポリージャ州~メリトポリ~アゾフ海」と口を揃える。

 ロシアが占拠するウクライナ南部地域は、ロシア国境から西進しアゾフ海沿いにクリミア半島の付け根をかすめ、ヘルソンに至る東西約500km、南北の幅約100kmに及ぶ。このほぼ中間のザポリージャ州の北から逆襲し、一気にアゾフ海まで進撃して南部地域を分断。西端のヘルソン周辺に布陣するロシア軍部隊を事実上孤立させ、「降伏か、クリミア半島への敗走か」の二者択一を迫る──というシナリオが真実味を帯びている。

 このルートの距離は約100kmで平坦な畑が広がり、戦車や装甲車が走るには好都合な戦場だ。途中、人口10万人クラスの中心都市メリトポリがあり、ウクライナ側のパルチザン(ゲリラ組織)が抵抗活動を続ける。

 市街戦は市内に立てこもる側が断然有利で、ウクライナ側に相当の損害が出る可能性もあるため、市内突入は控えて都市を包囲して「兵糧攻め」を実施。主軸部隊は脇目も振らずにアゾフ海の海岸を目指す。まさにスピードが命の「電撃戦」そのものだ。

 なおロシア軍は前線に沿って総延長120km超、幅数百mの強固な防御陣地を構築。対戦車用の塹壕や地雷原、三角錐のコンクリート製ブロック「竜の歯」、鉄条網などを何重にも配し、塹壕やコンクリート製シェルターには対戦車ミサイル(ATM)や機関銃を構えた兵士が配置されているという。

 軍団にとっては実に厄介な存在だが、防御陣地の撃破には秘策とも言うべき「(燃料)気化爆弾」を使う可能性も取りざたされている。

 これは「サーモバリック弾」とも呼ばれ、大量の液体燃料・固体の爆薬を大気中で瞬時に気化・発火して爆発的に燃やし、凄まじい衝撃波や高温高圧の爆風、酸欠状態、一酸化炭素を大量発生させる。そして、地雷や構築物、塹壕に隠れる敵兵を一掃するという爆弾だ。

「非人道的」との批判もあるが、同種の爆弾はロシア軍がすでにこの戦争で使用しており、ロシア側が文句を言う筋合いではない。

 ただこの「ザポリージャ~アゾフ海」ルート、味方の戦闘機・攻撃機による分厚い航空援護(エアカバー)がなければ達成は極めて困難と見るのが常識だろう。ロシア側も当然このルートを最も警戒しているはずで、地上部隊も手厚く配置し、温存する数百機の戦闘機・攻撃機を差し向けてウクライナ軍団の壊滅に心血を注ぐのは間違いない。