メリトポリ以西の地域を奪還する壮大なシナリオの行方

 ヘルソン周辺には4~5万名のロシア軍が立てこもると見られるが、ウクライナ軍が思いもよらない東側から現われ、しかもドニプロ川の西側からも、絶えずウクライナ軍特殊部隊が上陸侵攻作戦を展開する状況で、果たして士気の低いロシア軍がヘルソンで徹底抗戦するか、かなり疑わしい。総崩れするくらいならクリミア半島に撤収、という選択肢を選ぶほうがロシア軍全体にとっては賢明との意見も少なくない。

 うまくいけば、ヘルソン周辺のロシア軍は「兵糧攻め」を恐れて早々にクリミア半島に撤収し、ウクライナはメリトポリ以西の地域を奪還という壮大なシナリオだ。

独陸軍の主力戦車「レオパルト2」(写真:米陸軍)

 ただし、気になる点が2つある。1つ目は依然としてロシア軍が籠城するザポリージャ原発の存在で、最悪の場合原子炉を破壊して意図的に放射能をまき散らす危険性がある。ただし、黒海のリゾート地にあるプーチンの別荘、通称「プーチン宮殿」にも被害が及ぶので行わないのでは、との見方もあるが分からない。

 2つ目は人造湖をせき止めるカホフカ・ダムを破壊してドニプロ川下流で洪水を起こし、ウクライナ軍の渡河作戦を妨害しかねない点だ。だが強行すると湖の貯水量は極端に落ち、水資源の大半をここに頼るクリミア半島はすぐさま干上がってしまう。ロシアにとっては「天にツバを吐く」行為だが、プーチン氏ならやりかねない。

 孫子は「兵は詭道なり」として、戦いは騙し合いだと説いたが、裏をかいて予想すらしない反転攻勢ルートが飛び出すのか、あるいは裏の裏をかいて「王道」を進むのか──。ウクライナ軍の“先生役”である米軍は、第2次大戦の「ノルマンディ上陸作戦」、朝鮮戦争の「仁川(インチョン)上陸作戦」、湾岸戦争の「砂漠の嵐作戦」(砂漠からの大迂回進撃)など、一大奇襲作戦を次々に成功させている。

 ゼレンスキー氏が仕掛ける、21世紀最大の「一大反転攻勢作戦」の火蓋は間もなく切って落とされる雲行きだ。