ウクライナのゼレンスキー大統領(写真:REX/アフロ)

(国際ジャーナリスト・木村正人)

米専門家「ロシア軍は年初より弱体化している」

[ロンドン]「ロシア軍は過去13カ月、体系的な問題を露呈してきた。陸軍に深刻な打撃を受けた」。

 露国防問題に詳しい米シンクタンク、ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャーはロシア軍の状況を「シュレーディンガーの猫」にたとえた。オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガー(1887~1961年)が発表した思考実験である。

ランド研究所のダラ・マシコット上級政策リサーチャー(筆者撮影)

 シュレーディンガーは箱の中で放射性原子が自然崩壊(1時間後に原子崩壊する可能性は50%)すると毒ガスが発生し、中にいる猫が死ぬという装置を考えた。原子がいつ崩壊するかは量子力学的プロセスなので一定ではなく、猫がいつ死ぬかも一定ではない。フタを開けてみるまで猫が生きているのか、死んでいるのか分からない。

 ウクライナ東部と南部を占領するロシア軍が、昨年のキーウ、ハルキウ、ヘルソンに続いて潰走するのかどうかもウクライナ軍の反攻が始まってみないと本当のところは分からない。フタを開けてみないと分からない、というこの状況がまさに「シュレーディンガーの猫」というわけだ。

 それでもマシコット氏は筆者に次のように指摘した。

「ロシア軍は年初より弱体化している。東部ドンバスでの攻勢でいくつかの陣地で弱くなっている。ウクライナ軍が反攻に出る正確なエリアは分からないが、ロシア軍の攻撃力は2カ月前より低下している。反攻の結果が非常に重要だ。西側では大半がウクライナを支持する一方で、勝利とは何かという疑問が高まっている」