陽動作戦でノーマークのルートを進撃する可能性も

 そこで一部では、よりリスクが低く今までほぼノーマークの「メリトポリ左回り」ルートが囁かれ始めている。

 ザポリージャ市(ウクライナ支配地)の南部から前線を突破し、軍団はまずここで2つに分かれる。主力部隊がすぐ西に折れ、もう片方の部隊は牽制部隊として、誰もが最有力視しロシア側も警戒する前述の「ザポリージャ~アゾフ海」のルートを、あたかも進撃の本筋だと言わんばかりに派手に振舞う。専門用語で言う「陽動(引っ掛け)作戦」だ。

 その隙に主力部隊は敵の防備が比較的手薄なドニプロ川の人造湖(カホフカ貯水池)沿岸を一気に進み、メリトポリ西側に回り込むように南進してそのままアゾフ海に到達するというシナリオだ。ロシア側もまさか人工湖を越えて、ウクライナ軍が上陸作戦をするとは考えず、この辺りの兵力配置は手薄だと考えられる。

 それと連動してドニプロ川の全般にわたりウクライナ特殊部隊の高速ボートによる奇襲上陸作戦を至る所で展開。守備するロシア軍を翻弄させながら、頃合いを見て同川の数箇所に橋頭保を確保。前述の主力部隊の前進と連動し、ヘルソン地域守備のロシア軍に揺さぶりをかけるという一大作戦だ。

 最大のメリットは、人造湖の対岸がウクライナの支配地域で、距離にして30km足らずだということだ。

 ウクライナ軍が持つ一般的な大砲(射程30km)でも十分援護射撃が可能で、長射程の高機動ロケット砲システム「HIMARS」(同80km)や、HIMARSから発射できる長射程の精密ロケット弾「GLSBD」(同150km)の支援も十分期待できる。同じく射程数十km程度のSAMでも主力部隊を十分エアカバーできる点にある。もちろんウクライナ空軍も自国の近くで出撃しやすい。

 加えて、米軍やNATOの電子戦機が、ウクライナ南部のオデーサ(ウクライナ支配地)の領海ギリギリの公海上空で旋回飛行し、強力な電子妨害(妨害電波。ジャミングとも言う)をこの地域に浴びせロシア軍機やミサイルを狂わす側面支援も十分行える。

 その反面、ロシア空軍は本国から離れているので、この地域の制空権(航空優勢)を確保するのはかなり難しいだろう。

 それ以前に、進撃する主力部隊にとって敵は片方(一方は人造湖)にしか存在しないので防御が楽。しかも作戦継続に欠かせない武器・弾薬・補給(兵站)も人造湖を活用できる。

 上陸用舟艇や既存の河川用の小型貨物船や艀(はしけ)などを動員して水運すれば、相当量の軍需物資の供給は可能だと見られる。頃合いを見計らって、小型舟艇を使った「浮き橋」を何本も構築して補給路を強固にするのも可能だ。