安倍元首相に打ち明けた習近平国家主席の本音
橋本:安倍さんが初めて会った時、習近平は非常に硬い表情でした。そっぽを向くような写真もある。しかし、会談を重ねるとだんだん和やかな雰囲気になります。そしてある時、習近平はこう言います。「自分がもし米国に生まれていたら、米国の共産党には入らないだろう。民主党か共和党に入党する」
このことから、彼は共産主義を信じているのではなくて、権力を掌握するために中国共産党にいるという本音がうかがえる。強烈なリアリストなのです。そうすると、対中外交もそのことを頭に入れて安倍さんは考えるようになる。
安倍さんは、中国との外交は将棋と同じだと言いました。金の駒を取られそうになったら、飛車と角を取りに行く手を打たなければならない。常に戦略的にものを考えなければならない。
さらに、対中外交の一番の切り札は、中国の行いを厳しく批判する厄介な安倍政権がいつまでも続くと相手に思わせることなのだと、そのためには選挙に勝ち続けなければならない、こう言っています。
──朴槿恵大統領だけは取り入る隙もないほどに緊張感のある関係だったという印象を持ちました。
橋本:そうですね。安倍さんはインタビューでも彼女の不幸な生い立ちについて言及しています。自分の父親をあのような形で暗殺されている。首脳の国際会議でもいつも1人でポツンとしていた、という話もありました。
そういった関係の中で、慰安婦の日韓合意があった。安倍さんは基本的には反対でした。「大丈夫か、本当にひっくり返されないのか」と何度も念を押して「大丈夫だ」と言われてやることにする。とても苦労していました。
「なぜこんな合意をするのだ」と保守派がすごく反対した。あの時は、櫻井よしこさんが「このお金は、韓国との手切れ金だ」と言って擁護しました。
──トランプが大統領に就任して最初に面会した海外のリーダーが安倍さんでした。また、トランプがトヨタの名前を出して円安批判をした時に、「特定企業の名前を挙げて非難するのはやめてほしい」「為替の話をやめてほしい」と即座に伝えています。安倍さんの特徴として、リスクを恐れない、素早く意思表示を行う、必ずしもバランスを取った言動を重んじない、といったコミュニケーションスタイルがあるように感じます。これは第一次政権における失敗から学んだ教訓でしょうか。