ケミストリーが合わなかったオバマ元大統領
──本書の中で、安倍さんは各国のリーダーたちについて印象やエピソードを語っておられます。トランプ、プーチン、アボットなどには親近感を感じ、朴槿恵、メルケルとはそりが合わず、習近平、オバマとは、腹の探り合いのような駆け引きが続いた、という印象を受けました。安倍さんと海外のリーダーたちとのエピソードで、印象的だったものがあれば教えてください。
橋本:印象的な話はたくさんあります。例えば、オバマ大統領です。安倍さんは彼とはケミストリー(相性)が合わなかった。
2014年4月23日に国賓として来日したオバマ大統領は、安倍さんと銀座の寿司屋「銀座 すきばやし次郎」で会食しました。オバマは仕事の話ばかりの人でした。寿司が出る前に、「アメリカ車を買ってほしい」と早くも切り出してきた。日本は関税をかけているわけではないと安倍さんが言うと、いや、非関税障壁があるとオバマは言う。
そこで、安倍さんはオバマを店の外に連れ出して、銀座を走る車を見せます。走っているのは、BMW、メルセデス、アウディ、フォルクスワーゲン。ハンドルを見ると、みんな右ハンドル。アメリカ車は一台も見当たらない。日本で売れている海外のメーカーはみんな右ハンドルに合わせる努力をしている。
さらに、アメリカの自動車メーカーは日本でコマーシャルを流さない。東京モーターショーにも出展していない。こういう話を安倍さんがすると、オバマは何も言い返すことができなかったそうです。
それからトランプ大統領ですが、彼が当選した時に、安倍さんは11月にトランプタワーに会いに行っています。
まだ現職のオバマ大統領がいるので、彼を差し置いて会いに行くのは失礼にあたる。そこで、オバマ側に会いに行くことを伝えたら、「トランプと会食するのはやめてくれ(面会は構わないが、会食はやめてほしいという意味)、報道陣を入れて撮影させるのはダメだ」と注文をつけられ、安倍さんはオバマの要望に添った形でトランプに会いに行く。
ニューヨークのトランプタワーで、娘のイバンカとその婿のクシュナーが玄関に迎えに来ました。そこで、イバンカの長女のアラベラちゃんが、ピコ太郎の真似をする動画を見た話をしてキュートだと安倍さんが褒めたら、その後、トランプが「イバンカは人に対する評価が厳しいが、安倍さんの評価は最も高い」と言ったそうです。
──懐に入り込むのが上手い。
橋本:そうなんです。そうするためにはいろんな情報を持たなければならない。ピコ太郎の話は珍しく外務省が仕入れてきたそうです。
そして、習近平です。