今も読売新聞の主筆を務める(提供:アフロ)

 96歳になる現在も読売新聞グループ本社の主筆を務める渡辺恒雄氏。吉田茂氏以降のほとんどの歴代総理大臣と昵懇の仲だったと語り、読売新聞社社長、巨人軍オーナー、日本新聞協会会長などを歴任した渡辺氏は、戦後政治の表も裏も知り尽くす「最後の証人」と言われる。

 この渡辺氏へのロングインタビューを基にしたノンフィクション『独占告白 渡辺恒雄~戦後政治はこうして作られた~』(新潮社)が上梓された。本書はNHKスペシャル『渡辺恒雄 戦争と政治~戦後日本の自画像~』(2020年8月9日放送)などの番組を制作した、NHK報道局政経・国際番組部政治番組チーフ・プロデューサーの安井浩一郎氏が書き下ろしたものだ。

 渡辺氏の証言から戦後政治のどういった側面が浮かび上がってきたのか。著者の安井氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)

──「渡辺恒雄氏という稀代のメディア人の実像に迫りたいという思いは、私自身の中でずっと温め続けていたものであった」とあとがきに書かれています。なぜ渡辺恒雄氏についての番組を制作しようと思ったのでしょうか。

安井浩一郎氏(以下、安井):戦後政治の表も裏も知り尽くす渡辺氏の証言を通じて、戦後政治がどのように形作られ、現在に何をもたらしているのかを解き明かしたいと考えたからです。

 1955年の保守合同による自民党結党前の時代から政治の中枢を一貫して見続けてきた人物は、盟友の中曽根康弘元総理大臣が亡くなった今、渡辺氏の他にいないとも言われています。渡辺氏が戦後政治の「最後の証人」と呼ばれるゆえんです。

 また、渡辺氏は「取材者」にとどまらず、さまざまな政局や総理大臣誕生にも深く関わり続けた「当事者」でもありました。こうした渡辺氏の目線から戦後政治を描くことで、戦後日本の歩みが別の側面から見えてくるのではと考えました。

 渡辺氏の主張や考えの是非を論じるということではなく、あくまで渡辺氏の視点から戦後政治に別の角度から光を当て直すことを通じて、戦後という時代そのものを描きたいと考えました。

──取材を通じて、渡辺恒雄氏という人物の特異性は、どういったところにあると感じましたか。