スズキ「アルト」(筆者撮影)

(井元 康一郎:自動車ジャーナリスト)

 毎冬に行われる“今年のグルマ”を決める選出会、「日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)」。今年の大賞は、軽自動車規格のBEV(バッテリー式電気自動車)である日産自動車「サクラ」/三菱自動車「eKクロスEV」が獲得。輸入車の「インポート・カー・オブ・ザ・イヤー」は、韓国ヒョンデのBEV「アイオニック5」が受賞した。

日本カー・オブ・ザ・イヤーで大賞を受賞した日産自動車「サクラ」(写真:Stanislav Kogiku/アフロ)

 クルマの電動化を求める社会的圧力が高まる中、特に日産と三菱自が快適装備や先進装備を持つ「ミニマムなBEV」を商品として世に問うた意味は大きく、軽自動車は大賞をもらえないというCOTYのジンクスが初めて打ち破られたのも納得の結果だったといえる。

 だが、注目すべきクルマはCOTYの各賞受賞モデルばかりではない。最終選考で無冠に終わったモデル、ノミネート止まりだったモデルにも意義深い、興味深いものが数多くある。COTY2022-2023にノミネートされたクルマ(2021年11月~2022年10月までの間に日本市場に投入された量販車)から筆者が独断でお薦めする「ベスト5」を紹介したい。

【1位】アルト(スズキ)

 COTYの最終選考の対象となる10ベストカー(今年は11モデル)に選ばれたものの最下位に終わった軽自動車のベーシックカー「アルト」。筆者はこのクルマで総走行距離3624kmの東京~鹿児島ツーリングを行ってみたが、その性能はとにかく素晴らしかった。大賞とはいかずとも上位に食い込んでほしかったというのが個人的な思いである。

スズキ「アルト」(筆者撮影)

 まずは経済性が無茶苦茶に高い。長距離走行時の実測燃費は高速道路を速い流れに乗って走った区間が22.9km/リットル、比較的のんびり走った区間が30km/リットル前後、最良区間は40km/リットルを超えた。また混雑の激しい市街地走行でも20km/リットルを割り込まない。欧州のユーザーはCO2のことをうるさく言うならEVが普及するのを待っていないで今の大型SUVを降り、アルトに乗れと思ったくらいだった。

 燃費がいいだけなら我慢のエコカーになってしまうのだが、アルトの偉大なところはロードテスト車だったFWD(前輪駆動)のトップグレードでも125万円という低価格車にもかかわらず、移動体としての出来が非常に良いことだ。

 能力的には普通車に及ぶべくもないが、乗り心地は柔らかで長距離を走るのがまったく苦にならない。静粛性は音楽を聴く気になる最下限をクリアしている。また、ふわりとしたタッチでありながらカーブで横Gがかかっても体がブレにくい優秀なシート。そして軽い車体の恩恵か、エンジンは非力であるにもかかわらず80km/hくらいまでは思いのほか速い。

 仕様的にはあくまで街乗り用、簡素もいいところだが、短距離用だからといい加減に作っている部分がほとんど見当たらないのは非常に良心的で、ユーザーが望めば長旅だろうがレジャーだろうが何にでも使える。しかも、内燃機関車としては目下のトップランナーに近い低CO2で、だ。

 クルマの価格は今後も上昇することが予想されるが、高価なフルハイブリッドカーを購入することができないユーザーも移動の自由を享受しながら環境負荷の低減に寄与できる。環境至上主義が高める経済力のバリアをブチ壊すこのアルトのようなクルマこそ、真の“手頃なクルマ”と言えるだろう。

スズキ「アルト」(筆者撮影)