業界用語「はがし」とは?

 拭き掃除やアメニティの補充、掃除機をかける作業を手分けして行い、30分くらいで清掃が完了した。髪の毛が落ちていないか、水回りが濡れていないかをチェックしてから扉を閉める。

「夜の清掃係は大変らしいです。15分くらいでベッドメイクと浴室の掃除をして、次のお客さんが入れるようにしなきゃいけない。だから夜は掃除機をかけず、コロコロでホコリを取るだけ。その代わりに、私たち昼間の清掃係がしっかり掃除するんです」

 保育士風女子がテキパキ説明する。

 次に、客が出て行った直後の部屋に移動した。乱れたままのベッドに、バスローブが脱ぎ捨てられている。飲料水のペットボトルや丸めたティッシュが、ゴミ箱に押し込められたまま。浴室からは生ぬるい湿気が漂っていた。

「生々しくて、触りたくないですよね」

 保育士風女子がイヤな顔もせずシーツをはがしていく。客が退出した直後の作業は、業界用語でその名も「はがし」と言うそうだ。

 はがしたシーツに、バスローブや枕カバーをすべて包んで繭玉のようにひとまとめにし、室内のゴミも一つに集める。実際にやってみると、想像していたような気持ち悪さはまったくなかった。

 風呂掃除は、排水溝の網もすべてひっくり返し、カビキラーをかけてブラシでこすり、最後に50度くらいの熱めのシャワーで天井から床までを洗い流す。

 乱れた部屋を、テキパキとリセットしていく彼らの姿は小気味いい。ヘドロのような人間の欲望と戦う、必殺仕事人のようだと思った。