「自動車の電動化にはムチよりアメが有効」
現代の自動車にはシートからエアコンの調節まで何百もの半導体が搭載されている。半導体が不足しているため新車が生産できなくなり、英国では希少価値があるわけでもないのに中古車が買った時より高く売れるという前代未聞の現象が起きている。コロナ危機で公共交通機関を避ける消費者の間で中古車需要が強まったことも価格を押し上げた。
「コロナで自動車メーカーが自動車生産を中止して半導体の発注をキャンセルした時、半導体メーカーはゲームやテレビ、電子機器に振り向けた。そのため、いざ自動車メーカーが生産を再開しようとしても後回しにされた」と英紙ガーディアンは解説する。ウクライナが半導体製造に必要なネオンの7割を供給していることも半導体不足に拍車をかける。
悪いことは重なるものだ。
米国ではマイカーを持つ若者が減る兆しが見られるという。2030年代後半に運転手のいない自動運転タクシーが登場していたら自動車を所有する動機はさらに低下する。
自動車産業を研究する英バーミンガム大学のデービッド・ベイリー教授(ビジネス経済)はオーストラリアのEV関連ニュースサイトで、厳しい時だからこそ「ムチよりアメが有効」と強調する。
「EVの需要が強いため、英政府はEV購入を支援する補助金を打ち切り、充電インフラの拡大にシフトした。しかし自動車購入者への補助金を打ち切った国々ではEVの需要が落ち込んでいる。英国は補助金というアメよりZEVの販売比率やCO2排出削減目標を達成できない場合、罰金を科すというムチを優先している」
こうしたアプローチの転換が自動車業界を圧迫しているとベイリー教授は分析する。スコットランドではEVの新車や中古車を購入しようとする人に無利子のローンを提供するプランが設けられた。英政府は裕福でない人々のEV購入支援を無視する。「アメよりムチ」の政策はトヨタが懸念するように英国の自動車産業を壊滅させてしまう恐れがある。
多くの日本人にとっても他人事ではない。トヨタがコケたら日本経済の衰退と円安はさらに加速する。ハイブリッド車からEVへの急激な移行がトヨタ崩壊の引き金にならぬよう日本の岸田文雄首相は次期英国首相が決まったら即座に動くべきだ。EU離脱と同じように温暖化対策を原理主義的に進めることは経済にとって大きなマイナスになる。岸田首相に手をこまぬいている暇はない。