安倍晋三元首相(写真:アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]参院選の街頭演説中に凶弾に倒れた安倍晋三元首相はロシアによるウクライナ侵攻直後の2月27日、フジテレビの番組で米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する「核共有(ニュークリア・シェアリング)」について国内でも議論すべきだとの考えを示した。

 遺言となったその真意と現実性をどう考えればいいのか、改めて米国の核専門家にインタビューした。

ロシアのウクライナ侵攻を見て「核の抑止効果について議論深めるべき」とした安倍氏

 安倍元首相は、旧ソ連崩壊後にウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの旧ソ連諸国3カ国が核兵器保有を放棄する代わりに米英露の核保有3カ国が主権と安全保障を約束した1994年の「ブダペスト覚書」に言及し、ウクライナが「もしあの時、戦術核を一部残し、活用できるようになっていればどうだったかという議論も行われている」ことを紹介した。

「被爆国として核廃絶という目標は掲げなければいけないし、それに向かって進んでいくことが大切だ。日本は核拡散防止条約(NPT)の加盟国で非核3原則*1があるが、世界ではどのように安全が守られているかという現実について議論していくことをタブー視してはならない。現実に国民の命、国をどうすれば守れるか、様々な選択肢を視野に議論すべきだ」と述べた。

*1 核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」という核兵器に関する日本の基本政策。沖縄返還に当たり、当時の佐藤栄作首相が1968年1月の衆議院本会議で言明した。

 生涯をかけて核拡散防止に取り組んできた英有力シンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のアソシエイト・フェロー、マーク・フィッツパトリック氏(米国在住)は高校の交換留学生として来日した際、広島平和記念資料館を訪れ、「核兵器が二度と使われることのないように、そしていつの日か廃絶されるように」と願うようになった。フィッツパトリック氏に聞いた。