巨大な中国共産党旗の前で敬礼する兵士(写真:AP/アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

 異例の「意見表明」と言っていいだろう。英情報局保安部(MI5)のケン・マッカラム長官と米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は7月6日、MI5の本部があるテムズ川沿いの「テムズ・ハウス」で産業界、学術界のリーダーを前に異例の合同演説を行った。そこで「中国共産党が米英両国の国益にもたらす脅威が増大している」と警告を発したのだ。

「私たち2つの組織は1世紀以上前に誕生し、長い間、密接に連携してきた。FBIのロンドン支局は1942年に開設されたが、FBIとMI5のトップが公の場で意見を交わすのは初めてのことだ。共通の大きな課題である中国に対して明確な意思表示をするためだ」

 ホスト役のマッカラム氏は自由経済と民主主義、法の支配の価値を守るためにこう協力を呼びかけた。

 世界を見渡せば、“独裁者”ウラジーミル・プーチン露大統領によるウクライナ侵攻とロシアスパイの秘密工作、シリア、ソマリア、アフガニスタンのイスラム過激派や、極右活動家がサイバー空間でさらに過激化し、単独で予測不可能なテロを起こすリスクが増大している。しかしマッカラム氏は「今日のテーマは、その対極にある」と強調した。

「私たちが直面している最も大きな変化は中国共産党によるものだ。中国共産党は密かに世界中に圧力をかけている。大規模な組織的キャンペーン。電光石火のスピードではなく、数十年にわたる戦略的な戦いである。個人の突出した行動ではなく、中国共産党の計画的で専門的な活動を私たちはいま目の当たりにしている」(マッカラム氏)

専門知識、技術、研究、産業上の優位性が危険にさらされている

(1)世界をリードする専門知識、技術、研究、産業上の優位性が中国共産党によって危険にさらされている(2)組織やスタートアップ、大学を要塞化せず守るためにできることはたくさんある(3)法律によって企業や個人が中国共産党に協力することを強制されるような国家ぐるみのアプローチを採用している――とマッカラム氏は会合の参加者に注意を喚起した。

 中国共産党は実際さまざまな方法を使って英米の優位性を崩しつつある。まず「秘密の窃取」だ。昨年、中国スパイのシュー・イェンジュン被告が米裁判所で経済スパイと米航空セクターの企業秘密窃取の罪で有罪判決を受けた。同被告は欧州でも活動しており、航空宇宙産業を標的とした中国の情報機関、国家安全部の大規模なネットワークに参加していた。

 スパイ活動は行わずに正面から「技術移転」する方法もある。英国に拠点を置く精密エンジニアリング企業スミスズ・ハーローは2017年、中国企業フューチャーズ・エアロスペースと契約を結んだ。フューチャーズ・エアロスペース社は品質管理の手順とトレーニングコースのために300万ポンド(約4億9000万円)を支払った。スミスズ・ハーロー社は20年に経営破綻した。