ロシアのプーチン大統領とショイグ国防相(写真:代表撮影/AP/アフロ)

(在ロンドン国際ジャーナリスト・木村正人)

[ロンドン発]ウクライナ軍が東部戦線で後退を強いられている。ロシア軍がウクライナ東部制圧を目指して仕掛けた飽和攻撃により、砲兵火力で10分の1以下のウクライナ軍はどうしても劣勢に立たされる。互いに兵力を磨り潰す消耗戦は長引けば長引くほど、ウクライナより人口が多く、経済力でも軍事力でも優位に立つロシアが有利になる。米欧はこの力学を逆転させる必要がある。

 露大統領府によると、ロシア軍は東部ルハンスク州の主要都市セベロドネツクに続き、7月3日、リシチャンスクを制圧、州境を掌握した。これを受け、ウラジーミル・プーチン大統領は翌4日、セルゲイ・ショイグ国防相に会い、中央グループ司令官と南部軍管区第8軍副司令官に「ロシアの英雄」の称号を与えるとともに部隊に休息を取らせるよう指示した。

 ウクライナ軍は死者2218人、負傷者3251人を出し、戦車など装甲車196両、航空機12機、ヘリコプター1機、ドローン(無人航空機)69機、長距離地対空ミサイルシステム6基、多連装ロケット砲97基を失った。リシチャンスクから撤退する際、戦車など装甲車39両、対戦車ミサイル48基、スティンガーシステム18基、ドローン3機を放棄した(露大統領府)。

 プーチン、ショイグ両氏はリシチャンスクとルハンスク州の制圧をロシア軍にとって大きな勝利と位置づけた。しかし2014年の東部紛争で親露派分離主義武装勢力を指揮したロシア民族主義者イゴール・ガーキン元ロシア軍司令官は、自身のテレグラムチャンネル(約40万人が登録)で高すぎる代償を払ったリシチャンスク奪取の意義に疑問を呈するなど、ロシア国内から戦略に対する批判の声が上がり始めている。

元ロシア連邦保安局(FSB)で「ロシア国家主義者」のイゴール・ガーキン氏(写真:AP/アフロ)

「みんな前線に出てしまって分隊長も素人の民間人」

 一方、5月28日から6月30日にかけポーランドとウクライナ各地を取材した筆者にもウクライナ軍の劣勢はひしひしと伝わってきた。医療支援を行うNGO(非政府組織)は5月下旬の時点で「ウクライナにいる障害者は約300万人で、手や足がない人の割合はその3%だ。今の激しい戦闘状態が続けば、この数字は10%に上昇する恐れがある」と予測した。