私の経験:大学で

 私は1967年に東京大学に入学したが、キャンパスでは体育系、文化系の各種の部やサークルが新入生の勧誘に精を出していた。この光景は、今の大学でも同じだと思うが、「原理研究会」というサークルもその一つで、これは統一教会の関連団体で、教団が提唱する「統一原理」を研究する会である。

 大学には、入試に合格した学生が日本各地から入学してくる。故郷を離れ、友人もおらず孤独に悩む者も多い。そのような学生に優しく声をかけ、お茶に誘ったり、悩み事を聞いてくれたりする先輩が出現すれば、心を動かされる。こうして、原理研究会のメンバーとなり、「統一原理」の勉強を共に行っていく過程で、統一教会の信者となっていくのである。そして、いったん入信すると、もう雁字搦めに縛られて脱会できなくなってしまう。

 キャンパスで、そういう目に遭った多くの学生を知っている。

 原理研究会は、東大では『東大新報』という学生新聞も発行している。東大には公益財団法人東京大学新聞社が発行する『東京大学新聞』という学生新聞があるが、それに対抗する形の学生新聞である。

 原理研究会は、多くの大学で、様々な名称で同じように学生新聞を出している。また、大学3、4年生、大学院生を対象に、渡航費・滞在費は無料でアメリカに招待する「指導者セミナー」というものがあり、これに参加することによって、信者となってしまうのである。そして、このセミナー参加者が、将来、官僚や教授となれば、行政や学会に信者を送り込むことになるのである。組織を牛耳る巧妙な手である。

 私は、東大の研究室に残り、ヨーロッパ諸国で勉強した後に東大の助教授に就任した。すると、今度は「世界平和教授アカデミー」という団体が接近してくる。海外でシンポジウムが開催されるので、是非参加してほしい、渡航費・滞在費はすべてこのアカデミーが負担するという。高名な教授たちは、海外の学界に参加する機会も多いが、駆け出しの若い研究者には無縁な話である。そこで、この「おいしい話」に飛びつきたくなるのである。

 しかし、海外渡航には教授会の許可が必要であり、その手続きをする過程で、過去に蓄積された情報から、この団体が統一教会の関連団体であることが判明するし、そのことを周りの教授たちが教えてくれるので、東大の場合は教授会に書類が出る前に、ほぼブロックされていたように記憶する。

 しかし、この誘いに1度でも乗れば、後は統一教会の広告塔として利用される運命が待っているのである。