(山中 俊之:著述家/芸術文化観光専門職大学教授)
広島・長崎に原爆が投下されて以来、77年が経過した。これまで、核戦争は実際には起こらないとされてきた。なぜならば、核戦争は人類を破滅に導く危険性が高く、核保有国の指導者にとって核兵器使用は決断できないタブーとされてきたからだ。
しかし、このタブーをロシアのプーチン大統領はウクライナ侵攻でいとも簡単に打ち崩してしまった。プーチン氏はウクライナ侵攻に関連して、「国家の主権を守るためであれば核兵器を使用する」と発言しているからだ。結果、核の実際の使用の可能性を巡り、国際社会は蜂の巣をつついたような騒ぎになっている。
実は、プーチン大統領が核兵器の使用の可能性を示唆するのは、今回が初めてではない。2015年3月のテレビ番組で、2014年のクリミア半島併合の際に、「核兵器使用の準備を始める可能性」を明らかにしている。
しかし、今回の発言は、実際の戦争が進行中の明確な発言であり、影響が大きいと言える。英エコノミスト誌など世界のメディアも、核兵器使用の可能性に関する記事が続いている。
既得権益重視のNPTは機能不全の恐れ
岸田首相が、8月にニューヨークで開催される予定の核不拡散条約(Treaty on Non-proliferation of Nuclear Weapons; 以下、NPT)再検討会議への出席の調整に入ったことが報道された。NPTは、1963年に国連で採択をされた核拡散を抑止することを目的とする条約である。
核拡散を抑止するために、核保有国である米露中英仏にのみ核保有を認めて、その他の国には核保有を認めていない。すでに核保有をしている国目線の既得権益ありきの条約である。
このような既得権益重視のダブル・スタンダードに反発しているインドやパキスタンは条約には加盟せず、自ら核保有をしている。北朝鮮は脱退し、イスラエルも加盟していない。
既得権益を主張する核保有国とNPTを脱退しても核保有したい国、核廃絶を訴える非保有国との間の溝は大きい。
岸田首相が出席を調整している再検討会議は、5年に一度開催される会議で、核軍縮や核不拡散が実行されているかどうかを確認するための会議である。2000年には「核廃絶に向けた明確な約束」についての最終文書を採択するなど、核軍縮に一定の成果を上げてきた。
しかし、そもそも既得権益ありきの条約だという点に、全世界的な核廃絶につなげる上での限界がある。