円高是正は内閣支持率がトリガーとなるか(写真:つのだよしお/アフロ)

(唐鎌 大輔:みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト)

 日銀は6月16~17日に開いた金融政策決定会合で、現行の金融緩和を維持する方針を決定した。会合前日、スイス国立銀行(SNB)が+50bpのサプライズ利上げに踏み込んだことを受けて、日銀もこれに追随するとの思惑から円安が顕著に是正されていたが、結局、会合後のドル/円相場は131円台から134円台まで戻って越週している。

 もっとも、国内市場参加者の中で、過去9年間にわたって堅持されてきた緩和路線がSNBのサプライズ決定一つで覆ると考えていた向きは少ないだろう。イールドカーブコントロール(長短金利操作、YCC)の破綻に賭ける海外勢の期待が先走っていただけに思える。ドル/円相場の押し目を待っていた向きには取引の好機だったのではないか。

 足許の円安相場に配慮を全く見せなかったわけでもなかった。

 声明文のリスクに言及する箇所では、「金融・為替市場の動向やそのわが国経済・物価への影響を、十分注視する必要がある」と記述された。金融・為替市場という表記は一般的とは言えず、通常は2011年の超円高局面で用いられたように「国際金融市場の動向」と表記するか、単に「金融・資本市場の動向」などにするのが通例と考えられる。「為替」と神経質な論点にわざわざ言及したことが異例であり、それゆえに警戒度の表れとの解説は目立つ。

 なお、円が史上最高値をつける前月となる2012年9月19日会合では「金融・為替市場動向の景気・物価への影響には注意が必要」と、やはり金融・為替市場という表現が使われている。日銀として、為替市場に対する警戒度が最高潮に達している意思表示と思われる。

 ただ、黒田日銀総裁は国会答弁において円安のスピードが速いことに警鐘を鳴らし、それをネガティブだと形容してきた。声明文の表記はそれが明文化されたに過ぎない。

 では、明文化されたから何かアクションがあるのかと言えば、そうとは限らない。論者により見方は分かれるが、現実的な一手が思い当たらないからこそ「注視」するしかないのであり、あくまで気休め以上の効果はないというのが筆者の基本認識である。

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