2020年のクルマの減産は、コロナによって需要が消滅したことが大きく影響した。しかし、2021年のクルマ生産の低迷は、主として半導体不足によるものである。実際、2021年になった途端に、半導体不足によりクルマがつくれなくなり、クルマを国の基幹産業としている日本、米国、ドイツの各国政府が、台湾政府経由で、TSMCに車載半導体の増産を要請する異例の事態が起きた。

 このとき不足していた半導体は、28nmのロジック半導体やMCU(Micro Controller Unit、通称「マイコン」)だった。これら28nmの車載半導体が不足した原因については、本コラム「なぜ車載半導体が不足するのか?カギ握る台湾TSMC」(2021年3月2日)に詳述した。概要を以下に説明する。

なぜ28nmの半導体が不足したのか

 2020年4~6月に、コロナの感染拡大に伴って、クルマ需要が大きく落ち込んだ。クルマメーカーは、トヨタ自動車が生み出した生産方式であるジャスト・イン・タイムによって部品を調達していたため、例えばトヨタ自動車は1次下請けであるデンソー等への車載半導体の発注をキャンセルした。すると、デンソーはルネサス等へ車載半導体の発注をキャンセルし、ルネサスは28nm以降を生産委託しているTSMCへの発注をキャンセルした。

 そのTSMCには、コロナ禍の特需により、ゲーム機用や家電製品用等の28nmの半導体の生産委託が殺到していて、車載半導体のキャンセルで空いたラインは瞬く間にこれらの半導体で埋まってしまった。

 その後、2020年秋にはクルマ需要が戻ってきたので、トヨタ自動車→デンソー→ルネサス経由でTSMCに再び28nmの半導体を発注しようとしたが、TSMCのラインは他の半導体で埋まっており、車載半導体を生産する余裕が無かった。2020年秋~冬にかけては在庫で凌いでいたが、年が明けて2021年になるとその在庫も底をつき、28nmの半導体不足により、本当にクルマがつくれなくなってしまったというわけだ。

ユニークな28nmの半導体

 2021年の前半は、世界的に28nmの半導体が不足した。その理由については、本コラム「『TSMC熊本工場』建設を喜ぶのが大間違いである理由」(2021年12月7日)で詳述した。簡単に言うと、28nmのロジック半導体には次に示す3つのユニークな特徴があったからだ(図2)。

(1)28nmはプレーナ型トランジスタの最終世代(16/14nmから3次元のFinFET)
(2)Self-Aligned Double Patterning(SADP)は使わない(FinFETからSADPを駆使することになる)
(3)ルネサスなどの垂直統合型(Integrated Device Manufacturer、IDM)がこの世代からファンドリーへ生産委託する

図2 半導体のテクノロジー・ノードとトランジスタの構造(28nmに多くの電子機器用の半導体が集中している)
出所:Joanne Chiao(TrendFore),“Wafer Shortages Drives the General Growth of Foundry Capacity in 2022”,Memory Trend Summit 2022“の発表を基に筆者作成