ロシア軍の攻撃によって発生した、ウクライナ・オデッサの燃料貯蔵施設などでの火災。オデッサには半導体製造に必要な希ガスの工場がある(2022年4月3日、写真:AP/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

戦争による半導体産業への影響

 ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が始まって1カ月以上が経過した。世界経済は深刻な影響を受けており、半導体業界も例外ではない。

 この戦争によって、ロシアもウクライナも、複雑に入り組んだ半導体産業のサプライチェーンの一端を担っていることが明らかになった。

 まず、2022年2月28日の「EE Times Japan」の記事「ロシアのウクライナ侵攻が半導体市場に与える影響は」によれば、ウクライナは、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)などの希ガス(レアガス)の供給国であるという。

 また、米国の市場調査会社「TECHCET」が2022年2月1日に発表した“Supply-Chain Threats from Russia-US Tensions”によれば、ロシアは半導体向けエッチングガス「C4F6」の供給国であり、米国市場では年間8万トンを消費しているという。

 さまざまな希ガスもC4F6も、半導体の微細加工に必要不可欠なガスであり、これらの供給が止まって、半導体工場などから在庫が無くなれば、半導体製造ができなくなってしまう。このような事態はこの戦争が起きて初めて発覚したことであり、筆者も驚いている。

 その後、新聞や半導体の専門誌の報道などにより、ただちに半導体製造が止まるわけではないことが分かってきた。しかし、戦争が長期化したり、たとえ戦争が収束しても、ロシアとウクライナのガス工場が稼働しなければ、世界の半導体産業に深刻な影響が出ると思われる。

 特に筆者は、C4F6の影響を心配している。というのは、希ガス(特にネオン)については、その影響や代替案などについての報道があるが、C4F6についてのニュースは何一つなく、したがって、先行きの見通しが立たないからだ。その前に、C4F6が半導体製造のどこにどのように関わっているかの報道もない。

 そこで本稿では、まず、半導体の微細加工について簡単に説明する。次に、種々の希ガスが半導体製造にどう関わっているかを論じる。さらに、C4F6が半導体製造のどこに使われているかを詳述する。

 結論を先に述べると、C4F6の供給が止まり、半導体工場の備蓄もなくなると、(特に米国で)半導体が全くつくれなくなる可能性がある。事態は極めて深刻であると言わざるを得ない。