「バラと子どもの街」
当時のプリピャチがそう呼ばれたように、若い人たちが全土から集まり、そこで家庭を持つことが多かった。だから民族の血のつながりで「ロシア系住民」といえば混在している。旧ソ連圏の宿命でもある。仮にプーチンが「ロシア系住民の保護」を強調すれば、どこまでもその触手はのばせることになる。現実にカザフスタンでは約20%が、ラトビアでは全人口の約4分の1がロシア系とされる。ラトビアはNATO(北大西洋条約機構)加盟国だ。
そのチェルノブイリ原子力発電所も侵攻開始の一報から24時間も経たないうちにロシア軍に制圧された。そこから首都キエフまで100キロ余りだから、ウクライナの首都陥落も時間の問題のはずだ。
歴史の針が大幅に巻き戻された
ウクライナ側の抗戦も伝わってこない。世論の大勢だった、ロシアが国境を接する東部に自治共和国を置く、とするシナリオまでは読めても、「大規模な侵攻はないのではないか」という楽観論までは通らなかった。
ウクライナを、レーニンとその同志がつくった、ロシアの切り離しがたい一部だ、などとプーチンが主張した今回の侵略が成り立つのなら、中国による台湾への侵攻もやりやすくなる。「ひとつの中国」を主張する中国共産党が、蒋介石と国民党がつくった台湾へ「自国民の保護」を理由に人民解放軍が全面侵攻する。次にそんなシナリオが待ち構えていたとしてもおかしくはない。
それくらい時代に逆行する野蛮な行為が現実のものとなった。