「ぶっ飛んでいる」

 ウクライナで長年暮らし、ロシア語も堪能な私の知る日本人は、プーチンの演説の中味を日本語でそう表現していた。

「あそこまで言ってしまったら、あとには退けない。時代錯誤の最たるものだが、後戻りしようものなら、自国民への示しがつかない」

「自国民の保護」が目的だったはずが、東部のみならず、北部、南部も加えた3方面からの全面侵攻になっている。

想像を超えた迅速さ

 民族主義を否定して成立したソビエト連邦では、圏内の人々の往来は自由だった。

 たとえば、ウクライナにはソ連時代に建設され、史上最悪の原発事故を起こしたチェルノブイリ原子力発電所がある。私が現地で事故の被災者に取材したところでは、発電所とそれに居住区として建設されたプリピャチの街は、当時としては最新の設備と豊かな自然に囲まれた夢のような都市だったという。

 プリピャチには「ジュピター」という大きな電気製品工場もあって、ソビエト全土から移住者を募っていた。しかも、ソ連時代は住宅も配給制で、いつもらえるかもわからない。チェルノブイリには集合住宅があって、いけばすぐにもらえる、そう聞いて移住した人たちも少なくなかった。