子どもの感性を伸ばす「感性教育」の題材として、五感の中で取り残されていた「嗅覚」を対象とする試みが日本で進められている。人工知能システムも援用し、「香りを言葉に表現する」ことで、子どもたちの香りに対する興味、関心、感性を高めたり、人の感覚の多様性を感じさせたりするものだ。
取り残されてきた「嗅覚」の感性教育
子どもの感性を育む教育は一般的に「感性教育」とよばれる。日本では少なくとも昭和20年代から、「感性」を主眼とした教育の議論や提案があった。以降、感性教育を意識的に導入する学校が現れている。
だが、感性教育の対象となる五感のうち、取り残されている感覚がある。「嗅覚」だ。
嗅覚は、記憶や感情との深い関連性をもち、食における「味わい」の重要な役割も果たす。一方で、視覚(見る)、触覚(触れる)、聴覚(聞く)、味覚(味わう)と比べて、授業の対象とするには手間がかかるなどの課題があるのだろう。「嗅覚教育」の実践や調査の報告はこれまで皆無ではないが、日本では学校授業の日常風景にはなっていない。
そうした中で、嗅覚を対象とし、かつ人工知能(AI)を援用する感性教育プログラムが、スタートアップ企業から誕生した。
香りを言葉で表現、感じ方の違いを実感
教室で、小学1年生の子どもたちが、瓶のふたを開けて香りを嗅ぎ、シートに「あっさり」「しずかな」「みずみずしい」などと書いていく。一方、他の子が同じ香りに対して書いた言葉には「クリア」「すーっとする」などの別表現が見られる。
子ども自らが言葉を思い浮かべて表すのは難しい。そこで授業では、「カオリウム」とよばれるAIシステムが画面に示す複数の言葉から、その子が感じた言葉を選んでいった。これならば、感じた香りを言葉に表現しやすいし、こんな言葉にできるといった気づきもあるだろう。