小さなペプチド模倣化合物(黒枠内)が、大きなタンパク質の表面に作用しているイメージ。タンパク質間相互作用(PPI)を阻害する新たな医薬品が、日本の企業からも誕生するかもしれない。(画像提供:プリズムバイオラボ)

 創薬の手立てとして、体内で生じる「タンパク質間相互作用」(PPI)とよばれるしくみを標的としたものがある。これを阻害することで治療効果を得る「PPI阻害剤」の開発に期待が高まっているのだ。

 国内ではPPI創薬に向け、バイオベンチャーのプリズムバイオラボ(PRISM BioLab、神奈川県藤沢市)がエーザイとともに肝細胞がん治療を視野に化合物を開発し、臨床試験で「創薬概念の検証」(POC)を達成するなど進展も見られる。今後は、創薬研究のスピードアップがPPI創薬でも課題となる。

タンパク質どうしの相互作用を阻害?

 私たちが使っている治療薬は、体に何かしらの変化を生じさせる。その変化により病気の発生や進行を食い止めることができる。

「タンパク質間相互作用」(PPI:Protein-Protein Interaction)とよばれるしくみを阻害して、病気への道を断ち切るのも治療薬が生じさせる変化のひとつだ。こうした、PPIの阻害を標的とした治療薬は「PPI阻害剤」とよばれる。

 PPIは、異なるタンパク質どうしが結びついて、特有の機能を発揮するしくみのこと。体の中でごく普通に生じる生命現象ではあるが、結びつくタンパク質の組み合わせによっては、病気の発生や進行をもたらすものもある。その悪化タイプのPPIを阻害するのが、PPI阻害剤だ。

実用化は海外でわずかながら「新薬のホープ」

 じつは、これまでもPPI創薬が実用化に至った実例はある。その多くは「抗体医薬品」とよばれる、私たちの免疫のはたらきを強める種類のもの。抗体医薬品の構造は大きいため、細胞表面の膜を通過することはなく、細胞の外側ではたらく。

 たしかに抗体医薬品はPPI創薬の大きな成果といえる。だが、膨大な開発費がかかり、1人の患者に年間1000万円以上かかる新薬も珍しくないという。

 これに対し、細胞の膜を通過するような「小さなPPI阻害剤」は、病気が生じる現場である細胞内で直接的に効果をもたらしうる。開発費も低めに抑えられる。

 いわば小さなPPI阻害剤は「新薬のホープ」だ。しかし、小さな化合物で巨大なタンパク質どうしの相互作用を食いとめるのは技術的に難しく、治療薬になりうる化合物を見つけたりデザインしたりするためのハードルは高い。

 少ないながら、小さなPPI阻害剤にも実用化例はある。C型肝炎治療薬のダクラタスビルや、がん治療薬のベネトクラクスなどだ。ただし、いずれも米欧で開発されたもの。日本での小さなPPI阻害剤の開発は、いまだ日の目を見ていない。