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 連載「実録・新型コロナウイルス集中治療の現場から」の第38回。なぜ新型コロナウィルスのワクチンは驚異的なスピードで開発できたのか?新型コロナウィルスの抗体解析に携わる小出昌平ニューヨーク大学教授に讃井將満医師(自治医科大学附属さいたま医療センター副センター長)が訊く。

 新型コロナウイルスのワクチンはわずか1年で開発されました。これは驚異的なスピードです。しかし、その早さゆえ不安を感じている方もいるのではないでしょうか。今回は、「なぜワクチンは1年で開発できたのか?」について、米国ニューヨーク大学医学部の小出昌平教授に伺います。(ワクチンの効果と安全性に関しては、第36回第37回もご参照ください。)

小出昌平(こいで・しょうへい)
ニューヨーク大学医学部生物化学分子薬理学科教授、がんセンターコアメンバー。東京大学農学部、農学系博士課程修了。1991年渡米。スクリプス研究所博士研究員、ロチェスター大学医学部准教授、シカゴ大学生物化学科教授を経て現職。タンパク質の新規機能の創生と抗体創薬における世界的リーダー。コロナ禍中で感染者とワクチン接種者の抗体解析も展開中。

検査手法の立ち上げから協力

讃井 まず、小出先生がどのような研究をされているのか、新型コロナウイルスとどのように関わっているのかから教えてください。

小出 私の研究テーマは、タンパク質がどのように機能するかを解明することです。この20年ぐらいは新しい機能を持ったタンパク質をデザインしてきました。最近は、その知識や技術を利用して、新しく作ったタンパク質分子による創薬に重点を置いています。

 新型コロナウイルスについては、当初血清による抗体検査がありませんでしたので、検査手法の立ち上げから協力しています。私の研究室では、抗体あるいは抗体の標的をデザインして作ることを日常的にやっています。ですので、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質を作るところから始めて、そのスパイクに血清中の抗体がどれぐらいくっつくかを調べています。

 じつは、実際に新型コロナウイルスに感染した人が回復したあとに作るスパイクに対する抗体の量は幅が非常に大きくて、たくさん持っている人もいれば、ほとんどない人もいます。

 さらに、最近はワクチンを打った人が増えてきているので、接種後にどのように抗体ができてくるかを調べ始めています。ワクチンを打った人の抗体の量は、実際に感染した人の中で一番多いレベルと比べても50%ぐらい多くありました。既に論文で報告されていますが、改めて驚きました。

なぜわずか1年で開発できたのか

讃井 非常に優れたワクチンと言えるわけですね。そのようなワクチンがわずか1年で開発されたことをどのように評価されますか。