外食産業の一翼を背負う二人、楠本氏と菊地氏の白熱した対話は続いた。そして話は「食」の未来形へと進む。コロナ禍によって、おいしいイノベーションが起こると何が変わるのか?

執筆:河西泰、撮影:片桐圭

「時間」と「場所」からの解放はイノベーション

菊地:産業で考えたとき、われわれが注視する3つの分類で市場規模を見ていくと、外食(食堂やレストランなど)は約25兆円、中食(なかしょく:総菜や弁当、デリバリーなど)が約10兆円、内食(うちしょく:家での調理など)は約35兆円と言われてきました(惣菜白書2020年版)。

 注目すべきはこの3つの分類が、まったく違うカテゴリーにされてきたことです。

 では、お客様はどういう選択をしてきたかといえば、「今日は外食をしよう(家で作るのはやめよう)」と思ったとき、「どこに行こうか?」「今日はお弁当にしよう」「じゃあ、どこで買おうか?」となったり、「あそこのイートインで食べよう」ということが起きうる。

 こうした例が示すことは、コロナ以前から中食、内食が外食のテリトリーに入ってきていた、ということです。

 コンビニのイートインスペース、スーパーマーケットのグローサラント(グロッサリーとレストランを合わせた造語)などがたくさん生まれてきて、「外食」は、ずっと受け身だったわけですね。

 これがコロナ禍になって、今度は外食がこのマーケットに入っていく構図ができた。

楠本:おおっ、外食の逆襲ですね(笑)。

菊地:ECやテイクアウトでお店の食事が家でできるようになった。すると、先ほど申し上げた、外食、中食、内食のカテゴリーの垣根は低くなり、合計約70兆円の食市場として見ることができるようになるわけです。

 こうした状況が行きつくのは、「お客様が好きな時間に、好きな場所で、食の選択ができる」こと。つまり、「時間と場所からの解放」です。

 これはイノベーションなんです。

 たとえば私たちの世代が好きだったテレビ番組、『機動戦士ガンダム』を観るには、土曜日の夕方5時に家で観なければいけなかった。これが、ビデオができて、まず時間から解放され、ポータブルが生れて場所から解放されるということが起きてきた。ウォークマンなんかもそのツールですよね。