(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
2021年のノーベル生理学・医学賞は、温度と触感の受容体の発見に授与されました。ひらたくいうと、皮膚が熱さを感じる時に働くタンパク質と、力を受けて変形したことを感じるタンパク質を見つけたのです。
今回は、私たちが熱さや触感をどう感じているかについてお話しましょう。最新の研究手法が駆使された、先端的な研究です。そんな方法で解明するのか! と驚くような研究です。
五感の仕組み
私たちヒトをはじめとする多くの生物種は、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚のいわゆる五感を備えています。これらが日々の生存にどれほど役立っているか、また生活を豊かにすることにどれだけ貢献しているか、今さらいうまでもありません。
そうした五感は、目や耳や舌や鼻や皮膚にある、光や音や化学物質や圧力などを感じる細胞によってもたらされます。例えば目の中の「視細胞」は、光を受けると電気化学的な信号を発し、それが神経を伝わって脳に届きます。
それらの細胞の仕組みは、何十年もかけて徐々に解明されてきました。1967年のノーベル生理学・医学賞は視覚の解明に、2004年は嗅覚の解明に授与されています。
今回のノーベル生理学・医学賞は、熱を感じる細胞の仕組みを解明した米国カリフォルニア大学のデヴィッド・ジュリアス教授と、圧力を感じる仕組みを解明した米国スクリプス研究所のアーデム・パタプティアン教授に授与されました。ジュリアス教授が熱に反応するタンパク質について発表したのは1997年*1、パタプティアン教授が圧力に反応するタンパク質について発表したのは2010年です*2。
ジュリアス教授の研究グループとパタプティアン教授の研究グループが発見したタンパク質はどのようなものでしょうか。それをいったいどうやって突き止めたのでしょうか。