藤井聡太 写真/Rodrigo Reyes Marin/アフロ 図版作成/アトリエ・プラン

(田丸 昇:棋士)

将棋史に残る絶妙手

 藤井聡太二冠(18=棋聖・王位)が今年3月、松尾歩八段(41)との竜王戦の対局(2組ランキング戦決勝)の終盤で指した▲4一銀は、「将棋史に残る絶妙手」として、棋士をはじめ多くの人たちから絶賛された。

 その一手はメディアに大きく報じられ、私は「▲4一銀はどれだけすごいんですか」と、将棋を指さない人からもよく訊ねられた。そこで、当日の状況も含めて、なるべく簡明に解説する。


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 図面①は、藤井―松尾戦の終盤の断片局面で、藤井が▲4一銀と王手(次に相手玉を取りにいく手)を打ったところ。▲は先手の藤井、△は後手の松尾。※双方の「持ち駒の歩」は省略。

 図面①の直前の局面では、▲8四飛と相手の飛車を取るのが当然の一手である。しかし、藤井はなかなか指そうとしなかった。ネット中継された「アベマTV」の将棋番組では、解説者の棋士が不思議そうに大盤を見ていた。

 やがて、本局の形勢判断や候補手を挙げるAI(人工知能)を搭載した「将棋ソフト」が▲4一銀を提示した。解説者はその狙いをすぐに察知し、「これは人類には指せない手だ」と語った。

 そして、藤井が59分の長考で▲4一銀を指すと、「キター!」「神降臨」「化け物か」「鳥肌が立った」など、視聴者からの驚きのコメントが画面に流れた。