藤井が一気に寄せきって勝利
図面①の▲4一銀ではなくて、飛車を取る▲8四飛は、松尾に厳しく攻められると、藤井は「詰めろ」(次に相手玉を詰める手)をかけられず負け筋になってしまう。
▲4一銀に対して、松尾はともに銀を取る△同玉と△同金の応手がある。△同玉は▲3二金の「王手」を打ち、△5二玉に▲8四飛と飛車を取れば、次に▲4二金と銀を取って△同金▲3四桂と金取りに打つ手が「詰めろ」になり、藤井の勝ち筋となる。
▲4一銀で△同玉と取らせて▲3二金と打てば、寄せが一手分だけ速くなるのだ。
松尾は、藤井の長考中に▲4一銀に気がつき、一緒に考えていたようだ。そのためか、ノータイムで△同金と応じた。
図面②は、それから3手後の局面で、藤井が▲7五桂と打ったところ。次に▲8二飛成と捨て、△同銀▲6四桂△同歩▲7二飛と連続「王手」すれば、以下は△6二銀▲6三金△5一玉▲6二金で後手玉は「詰み」となる。
▲4一銀△同金とさせた効果によって、後手玉は4筋の金が壁になって詰んでしまうのだ。
松尾は図面②の局面で、68分の長考で△5一金と右に寄せて壁を解消したが、藤井は▲6三桂成△同玉と捨てて▲6六飛の「王手」を打ち、以下は一気に寄せきって勝った。
松尾が自ら「首を差し出した」
▲4一銀の絶妙手をこうして解説すると、マジックの種明かしをされたようで、初級者の方でも「ああ、そうなのか」と、何となくわかるかもしれない。しかし、前述のように複雑で難しい変化手順があり、図面①の局面ですべてを読みきるのは大変なことだ。藤井の深い読みに裏打ちされた絶妙手であった。
実は図面②の局面で、持ち駒を使って△7二銀打で6筋を受ける順があった。しかし、松尾はしょせん負け筋と観念して△5一金と指した。つまり、藤井が組み立てた素晴らしい読み筋を認め、自ら「首を差し出した」のである。
棋士たちは局後、「人智を超えた一手」「AI超えの驚愕の一手」「神の手だった」など、藤井の▲4一銀に絶賛の声をあげ、驚異的な強さを改めて痛感した。その背景には、藤井の絶妙手を認めた松尾の潔さがあった・・・。
藤井は本局に勝ち、竜王戦の決勝トーナメントに5期連続で勝ち進んだ。あと2勝すれば、挑戦者決定戦3番勝負に進出できる。