(舛添 要一:国際政治学者)
長男の接待問題で菅義偉首相は苦境に立っているが、今度は、NTTから谷脇康彦審議官が接待を受けていたとことが明るみに出た。谷脇氏は、菅長男の東北新社以外の利害関係者からは接待を受けていないと国会で答弁していたので、虚偽答弁だと批判されも仕方がない。この問題は尾を引きそうである。
このような不祥事に加えて、新型コロナウイルス、東京五輪、解散総選挙と、先の見通しが全く立たない問題を抱えて、菅首相は苦慮している。いわば、三元連立方程式を解くのに苦労している生徒のようなものである。
小池都知事の機先制するための「期間延長」
まず新型コロナウイルスであるが、菅首相は、首都圏の一都三県については、緊急事態宣言の期限をさらに2週間延長することにした。ここに来て、感染者数の減少が鈍化したこと、そして医療が逼迫していることが理由である。
しかし、飲食店をはじめ、規制の対象となっている業界は青息吐息で、経営努力も限界に達している。また、いつまでもダラダラと緊急事態を続けるのか、いつになったら解除になるのかという疑問もある。
逆に、2週間で大丈夫か、1カ月くらい延長して、ウイルスをもっと抑え込むべきではないかという声も医療関係者から聞かれる。
そのような難しい状況の中で2週間延長という決定を菅首相が下したのは、またもやパフォーマンス至上主義の小池都知事の動きがあったからである。昨年3月23日に安倍首相が東京五輪延期を決めると、それまで前面に出てコロナ対策を講じることがなかった彼女は、急遽記者会見を開き、「ロックダウン」とか「オーバーシュート」という横文字を連呼し、国民を脅したのである。その結果、スーパーでの買い占め騒ぎが起こるなど、日本国中がパニックに陥ってしまった。
この騒動を鎮めるために、政府は、3月末に予定していた緊急事態宣言発令を4月7日まで延長せざるを得なくなり、この遅れが感染拡大を招いてしまったのである。詳細は、拙著『東京終了』に記してあるが、国との対立図式を作り、責任は国に押しつけ、自分だけは「よい子」になろうとする戦略だ。この人には、大衆の人気取りと権力の飽くなき追求しかないのである。
今回も、「ギアをもう一段あげて」などと意味の分からない言葉で、都民に努力を要請し、さらには、神奈川、千葉、埼玉の三県知事を引き連れて、国に緊急事態宣言の延長を求めたのである。
一日も早く解除できるように努力するのが都知事の役割ではないのか。都民に感染防止対策を要求するのみで、都知事として行うべき職務を果たしていない。たとえば、医療資源の最適配置である。重症者用病床の不足の一つの原因は、中軽症者を転院させるべき病院が不足しているからである。この問題は最初から分かっていたはずで、早くから体制を整えておくべき課題であった。