切羽詰まっているようだ。3月3日夜、今夏の東京五輪・パラリンピックに関し、政府が海外からの観客受け入れを見送る方向で検討に入ったと、複数の主要メディアによって報じられた。新型コロナウイルスの感染拡大を懸念する世論に配慮した格好と言えるが、このニュースを見聞きして「これで東京五輪は平穏無事に開催できる」と万歳三唱を繰り返している人は余程の楽観論者であろう。
その3日夜には東京五輪・パラリンピックの主要団体トップによる5者協議が行われ、大会組織委の橋本聖子会長、IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長、東京都の小池百合子知事、丸川珠代五輪相、国際パラリンピック委員会のアンドリュー・パーソンズ会長がリモートで意見交換を行っている。会談では海外からの観客の受け入れについて3月中に判断を行うことで一致。丸川五輪相は出席後「海外からの観客の受け入れは慎重な判断が必要だと提案し、異論は出なかった」と述べたが、これはあくまで会議の中で前向きな議論が進まず棚上げされただけの話であり、事態はまったく好転していない。
菅義偉首相も同日夜、首相官邸で記者団に「海外からの観客受け入れを見送るのか」と問われ「IOC、東京都、大会組織委員会と連携しながら、政府としてはお手伝いをしたい」と相も変わらず第三者の立場を強調しつつ、のらりくらりと述べるにとどめている。
開催を4カ月半後に控えた5者協議は単なる「顔見せ会合」
しかし、もう決断の先送りは許されない。世界ではワクチン接種が開始され、パンデミックの収束に期待が高まっているが、少なくとも東京五輪が開催されるまで残り4カ月半の間に「日常」を取り戻すことなど夢物語である。世界各地でいくつものコロナウイルスの変異株が広がり始め、ワクチンの効果に影響を及ぼす可能性も指摘されているのは重大な懸念材料だ。
フランス・パリやスウェーデン国内では感染者が再び急増し、ロックダウン導入の可能性が取り沙汰されるなど欧州はまたしても“ホットゾーン”と化しつつある。米国も新規感染者が減少傾向にあった中、2月最後の1週間は減少ペースが鈍化したことで疾病対策センター(CDC)が「最近の減少が止まり、感染者が高止まりしていることを深く憂慮している」と警鐘を鳴らしているのも無視できない事実だ。