BNT162b2やmRNA-1273を介して生産されるのは、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に由来するタンパク質分子です。このウイルスの表面からとげとげ突き出しているスパイクと呼ばれる部分の分子です。BNT162b2とmRNA-1273は、SARS-CoV-2の特徴であるスパイク部分の設計図をコピーしたものなのです。

 やがてヒトの免疫機構は、怪しいスパイク状物質が体内に増えてきたことに気づき、これを攻撃します。免疫機構の精妙な仕組みは、怪しいスパイクの形状を認識し、将来同じ形状の敵が現れた時に備えて記憶します。つまり、免疫がつきます。(mRNA自体はさほど寿命が長くないので消滅します。)

 こうして、mRNAワクチンの接種を受けたヒトは、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対する免疫を備えるのです。

すごいところ その1「病原体を使わない」

 革新的なmRNAワクチンには、すごい点や新しい特色がたくさんあります。そのひとつは、生きた病原菌やウイルスを含まないことです。

 天然痘ワクチンを始めとする伝統的なワクチンは、免疫をつけるために菌やウイルスを接種するのが基本です。

 もちろん病原性のある生きた菌やウイルスをそのまま体内に入れたら病気になってしまうので、本物に似ているけれども病原性の弱い別種を使ったり、遺伝子をいじくって無害にした株を使ったり、生育温度や培養環境を調節して弱らせてから使ったりします。

 しかし、天然痘よりも病原性の弱い牛痘のような別種が運良く見つかるとは限りません。弱らせる方法も、やってみないとうまくいくかどうか分からないところがあります。場合によってはワクチン開発までに何年もの試行錯誤が必要です。(遺伝子をいじくる手法はそれよりは確かです。)

 けれどもmRNAワクチンは、生きた病原体を注射するのと違って、シンプルでクリーンです。