自国製ワクチンの接種が始まったロシア(写真:ロイター/アフロ)

 世界は、新型コロナウイルス感染症のワクチンの話題で持ちきりだ。そうした中で、さほど注目されていないが、一つ、筆者が気になるニュースがあった。

 アストラゼネカが、ロシアのガマレヤ国立疫学微生物学研究所とワクチンで協力するというニュースだ。自社製ワクチンとロシア製ワクチンを組み合わせた臨床試験を始める。2020年の中頃は拙速な承認だと欧米諸国から批判を受けたロシアだが、ここに来てのアストラゼネカの協業は、ロシアのワクチンを評価するような動きにも見える。

 かねて筆者はロシアのワクチンに対するアプローチが、ワクチンの弱点とされる点をうまくカバーしていると考えていた。今回、アストラゼネカがロシアの研究所と協業した背景とも関係しており、ワクチンの有効性を考える参考になると思い、その辺りについて考察する。

「フェーズ3」を飛ばして承認したロシア

 ロシアや中国は2020年の夏にいち早くワクチンを承認および緊急的に接種を開始したが、社会主義国家特有の強引さに対する偏見もあるのか、「有効性や安全性の検証がおろそかであり、あまりに拙速だ」と批判を浴びた。

 確かに、ロシアは、1万人を超える健常者を対象とするような最終段階の臨床試験、フェーズ3をスキップして承認に踏み切った。リスクがあるので、そこは批判を浴びても仕方がない。中国も同様だ。

 さらに言えば、欧米の中だけではなく、ロシア国内でもワクチンのフェーズ3を飛ばしたことは禍根を残している。

 12月9日、ロシアの独立系英語メディアであるモスクワタイムズは、ロシアでは医療従事者などのエッセンシャルワーカーを対象にワクチン接種を進めていると報じた。

 この記事では、ワクチン接種について医師らの不信感も募っている状況も示されている。医師らはワクチン接種を拒否している状況というのだ。「ワクチン接種を拒絶すれば、上司からクビを宣告されるかもしれない」と不安のコメントも載せている。

 医師が接種に積極的になれない理由はフェーズ3の情報がないからだ。ワクチンに期待を抱いている一方で、様子見したい気持ちが強いようだ。こうした状況を見ると、通常を上回るペースでの開発プロセスは世界共通であり、欧米や日本でもワクチン忌避が課題になるのは間違いない。

 ロシア国内も含め、ロシア産ワクチンには疑いの目がいまだに強いが、筆者からすると、社会主義国のワクチン開発は正々堂々としている面もあると、以前から感じていた。