米ファイザーは11月9日、開発するワクチンの臨床試験で9割の有効性が確認できたと発表した。冬に向けて感染拡大が危惧される中、「9割効果」が事実だとすれば、新型コロナの克服に向けて大きな希望だ。
現在、世界中でコロナ制圧に向けた治療薬開発が進んでいる。実際に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の医薬品の臨床試験がどれぐらい進んでいるのか、その点について米国衛生研究所(NIH)運営の国際的なデータベース、国立医学図書館「ClinicalTrials.gov」で検索すると、11月9日時点でその件数は3849に上る。
このデータベースを見ると、世界の治験薬開発が大きく二正面作戦で進んでいることが分かる。ウイルス自体を抑制するアプローチと、宿主側であるヒトに働きかけるアプローチの2つの方向だ。今回は、最近の研究発表や既存のデータベースを踏まえてコロナ治療の展望について考察する。
ファイザーのワクチンの実力は?
ファイザーのワクチンは効果が9割と報道されているが、ファイザーの研究成果についての論文自体が示されているわけではない。ただ、発表された文面を見ると、中間分析データからの報告ではあるものの、目標に近い量のデータを集めており、報告の信憑性は高いと思われる。外部の独立したデータモニタリング委員会の評価も得ている。
ファイザーは、ドイツの製薬ベンチャー企業バイオンテックと共同で、新型コロナウイルスの持っているタンパク質の遺伝情報をmRNAという核酸に入れ込んだものをワクチンとして開発している。そのワクチンの効果を検証する臨床試験を進めており、4万3538人の対象者のうち3万8955人には実際のワクチンを、残りには偽薬であるプラセボを接種した。今後、新型コロナウイルス感染症の感染者が164人に達した段階で最終分析に進む。今回は94人の感染を確認した段階での分析を中間結果として報告した。
その結果だが、プラセボ接種を受けたグループと比べると、ワクチン候補を接種されたグループでは90%で感染を予防する効果が確認できたと説明している。ワクチンは3週間の時間を空けて2回接種する。重要な評価項目は2回目の接種から7日目以降の感染者の人数としている。今回の中間結果では2回目の接種から7日時点のデータ、すなわち28日間における感染者のデータから90%の感染予防という有効性が示されている。詳細な計算結果は出ていないが、感染者が9割減少すれば、有効性9割と説明することはできるだろう。
28日間のワクチンの有効性を評価したに過ぎず、見方によっては「わずか1カ月間の感染予防につながるだけか」という話かもしれない。さらに追跡調査すれば、効果は下がるかもしれない。しかし、1カ月間、感染者を10分の1に抑えられることによる感染拡大抑止効果は大きいと筆者は考える。