(小谷太郎:大学教員・サイエンスライター)
今回はみなさんに最高の音速を解説しましょう。それは秒速3万6000 m、時速にして13万kmです。これがどうやら固体中で達成できる最高の音速のようなのです。
その鍵は水素にあります。水素は無色無臭の燃えやすい気体ですが、これに100万気圧以上の超高圧をかけて超ぎゅうぎゅうに圧縮すると、相転移して金属に変化するといわれています。が、人類の実験室ではいまだ実現していません。
この未だ見ぬ金属水素こそ、最高の音速を伝える物質だ、というのが理論的な予想です。
音はどうして伝わるのか
空気が震え、それが伝わっていくと、音になります。
音に速度があることは、日常の観察から分かります。花火を見物すれば、火薬が爆発してから、数秒遅れて音が届きます。雷なら、稲光の後しばらくの(心臓に悪い)沈黙があってから、雷鳴がとどろきます。
空気中の音速は0℃で秒速331.45 m、時速1193.2 kmです。旅客機くらいの速さなので、高空の飛行機を見たら、あれが音速だと思っていいでしょう。
空気ばかりでなく、固体も音を伝えることは、壁や床に耳をつければ分かります。遠くの物音が意外にはっきり耳元で聞こえます。
たいていの固体の音速は、空気中の秒速331.45 mより桁違いに速いです。固体を構成する原子や分子どうしは、互いにがっちり固定されていて、原子の振動がとなりの原子に直ちに伝わるからです。
ちなみに最高硬度を誇る固体、ダイヤモンドを伝わる音は秒速1万m以上です。常温常圧ではこれが音速の最高でしょう。
一方、気体や液体では、分子が結晶を形作らず、てんでんばらばら勝手な方向に飛び回り、ぶつかり合っています。このぶつかり合いによって音が伝わるので、音速は分子の運動速度程度です。
温度が高いと分子のてんでんばらばらな運動は速くなります。そのため、気温が高いと音速は速くなります。